準備もクソもありますか!
お越しいただきありがとうございます。
普通なら、誰もいないはずのリビングから家族以外の人が出てきたら驚いて通報ものだけど、この人に関しては何でもありなんだろうって流しちゃうのは諦めに近いんだろうな。
こんなところはごんに毒されてきたのかな、なんてぼんやり思ってしまう。
リビングから出てきた美女は笑顔でひらひと手を振った。
「お嬢ちゃん、久しぶりね。」
ああ、美人はいつ見ても美人だ。なんて馬鹿なことを思いながら頭を下げる。
「こんにちは。お久しぶりです。」
ため息を漏らしたいけど、そこはぐっと我慢する。
「稲荷様!」
「人の家に何勝手に入っているんです。」
「ごっめーん、急いでいたからついね。」
かごの中の亀の叫びはスルーして、不機嫌そうなごんに笑顔を向けている。
「ともかく、玄関先で話すのも落ち着かないから中に入ってよ。」
扉を開けたまま促されるけど…ここ、わたしの家よね?間違えてないよね?
ごんも深い溜め息をついたけど、何を言っても無駄とわかっているようだ。かごの取っ手を口に咥え、引きずるようにしてリビングに入っていった。
わたしも慌てて靴を脱いで中に入った。
あ、一応アルコール消毒しておこう。さっき亀触ったし。
靴箱の上においてあった消毒薬をワンプッシュしてから中に入った。
「で、先ほど言っていた『よろずなんとか』とは何だ。」
ごんはかごの前に座り込み、亀を睨みつけた。
「『萬相談』ね。あら、お嬢ちゃんお茶ありがとう。」
お姉さんはわたしが出したお茶を受け取ると、思い出したように袋を差し出した。
「ちょうどよかった。頂き物のお裾分け。」
差し出された袋の中から箱を取り出し開けえてみる。
「わあ、お稲荷さんだ。」
中には小ぶりで色々な種類のいなり寿司がたくさん入っていた。
めちゃくちゃ美味しそう。
「こんなにたくさん良いんですか?」
わたしの言葉にお姉さんは苦笑を漏らした。
「よくお供えされるのよ。いなり寿司とかお揚げとか。」
お供え…深く突っ込むのはやめよう。
でもこれ、人間が食べて良いものなのかな?チラリとごんをみると、大丈夫と言うように頷いたのでありがたく頂くことにする。
「土産はありがたくいただきます。で、本題の説明をしていただきたい。」
「もう、白のはせっかちね。」
お姉さんはお茶を一口飲んだ。
「出雲に行ったときね、あんたを見たの久しぶりだって結構話題になったの。」
出雲ーああ、10月の話か。
「そうしたら、この地の土地神がたまたまいて、大祭のとき社に飛び込んできたって話したらしくて。」
大祭?社に飛び込んだ?ん?そんなことあったの?
「その話と萬相談の話はどうつながると言うのです。」
ごんとしてはあまり触れたくない話のようで、お姉さんに先を促す。
「あんたも分かっているように、この地にいる為には理由が必要なの。」
ごんは犬としてうちにいるけど、本当は神の使いだからおいそれとこちらの界には居れないらしい。
「それと萬云々何の関係があるのです。」
「最近、あんたこちらの界の情報的なの報告したじゃない?あれ、好評でね。」
情報?ごんが?
「ほら、あれよ。あんたんちの養い子の家であった、『すいどう』とか『すいっち』とか。」
え?そんな情報が好評なの?そんな情報、昭和通り越して大正時代じゃないの?
「養い子たちが戻ったときのお手伝いを〜って言ったら、方方から是非相談にのってほしいってね。」
「それからどれくらい経っていると思っているんです。」
ごんは鋭い目つきでお姉さんを睨みつけた。
「やっだー準備期間も必要でしょ?」
「何も知らないのに、準備もクソもありますか!」
ごんはふざけんな!とばかりに声を荒げたが、お姉さんは「ごっめーん」と笑うだけだった。
怒るだけ無駄だな。ごんも学習したらいいのに。
わたしは温くなったお茶をすすった。
「あのーそれでわしの相談は…」
忘れかけていた招かれざる客がおずおずと声をかけてきた。ーーー
お読みいただきありがとうございました。




