わしを殺す気か!
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声をかけられた気がして振り返ったけど、そこには誰もいなかった。
お正月も終わって、家から出たくない寒さが続く今日このごろ。
家から出たくないんだけど、悲しいことに大学には試験とかレポート提出とかあって。
試験もレポートもオンラインで良いじゃん!って思うんだけど、何故か文系の先生達って紙が好きで。
結局文系の学部に所属しているわたしは、レポート提出の為だけに学校に行きその帰り道なわけです。
無事にレポートは提出して、出来れば暗くなる前に家に着きたいと足早に歩いていると呼ばれたような気がして立ち止まった。
ごんが一緒の時は、立ち止まると「調子が狂う」と嫌がり、そのままわたしを引きずるように歩き続けるのだけど、そのごんも今はいない。
心置きなく立ち止まってキョロキョロしてみる。
辺りには人影も車すら走っていない。
気のせいかな?歩き出そうとした足元に10センチくらいの石が落ちてた。そ
そのまま歩き出そうとしたら、石が何故か靴にくっついている。
「何これ!」
気持ちの悪さに思わず叫んでしまい、よくよく石を見てみたら何やら動いて、必死に靴にしがみ付いているのがわかった。
「‥亀?」
気持ち悪いと思いながら、しゃがんで近くに見てみると頭が出ており、短い足で一生懸命登って来ようとしている。
へんなモノでは無いだろうと少し安心したけど、どうしようこれ。このまま道に置いていったら、誰かに踏まれそうだし、車道に出たら車に轢かれるは目に見えている。
でも、何でこんな所に亀がいるんだろう。何処かから逃げてきたのかな。
「あ、そうだ。」
わたしは足元の亀を指で摘んだ。
首をミニョーンと伸ばして手足をバタつかせているけど、急に掴まれたからびっくりしているんだろう、多分。
帰り道の途中にある橋の上から、亀を川に戻すことにした。
飼い主を探すのは無理だし、亀は水の中の生き物だろうし。
欄干から手を伸ばして、亀を川に戻した。
「もう、戻ってくるなよ。」
川に戻した亀は、川に落ちていく間も暴れている様に見えたけど、きっと気のせい。
わたしはちょっと良いことをした様な気になりながら、家に向かった。
「おかえり、はれ。」
「ただいま、ごん。」
家に帰るとごんが迎えてくれた。
「これ、手を洗ってこい。」
暖かい部屋にそのまま座り込もうとするとストップをかけられた。
「あーはいはい。」
洗面所に向かうと、ごんも付いてきた。何やら変な顔をしている。
「なんぞ、あったか?」
?何でそんな事を聞いてくるんだろう。
「なんぞって、何が?」
「それをわしがきいておるのじゃが。」
「何でそう思ったの?」
ごんはうーんと考え込む様な仕草をした。
「見知った気配がついている様な気がしたのじゃが‥あやつがここにいるわけもないじゃろうし。まあ、わしの思い過ごしじゃな。」
ごんは自分を納得させる様にブツブツ言っている。何のことだろう。
まあ、いいか。
「あ、帰ってきたばかりだけどこのままお散歩行かない?一回座ると動くのが面倒になるし。」
「お主がそれで良いなら良いが。」
上着を脱ぐ前だったので、ごんにリードをつけて、お散歩バックと鍵とスマホを持って玄関を開けた。
「足を下ろすな、はれ!」
一歩踏み出そうとすると、珍しく慌てた様なごんの声に片足を上げたまま固まってしまう。
何のことかと足を下ろそうとした場所を見ると、10センチくらいの石があった。
あれ、これって。
見覚えはあるけど、何でここにあるの?
頭の中が疑問符でいっぱいになる。
そんな時、石から手足首がミニョンと出てきた。
「わしを殺す気か!」
やはり、さっき川に戻した亀らしい。
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