お世話になりました
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それからというもの、文治郎殿は白の君を『兄上』と呼ぶようになり、白の君もまんざらではないようなご様子で、一緒に過ごすことが多くなりました。
朝は一緒に食事を取り、お仕事に向かわれる白の君を見送り文治郎殿も少しずつ部屋から出てくることが多くなりました。
白の君の忘れ物を届けに行き、そのままお仕事が終わるまで待ち、ご一緒に帰宅なされたりするようにもなりました。
この頃からでしょうか。弁当を携え、白の君とお宮に行くようになっておりました。
お宮で何をしているのか聞いたところ、学問を習いその後白の君や他の皆様のお手伝いなどをしている、と言っておりました。
お手伝いって…こんな子供に何ができるのやら。皆様が気を使って下さっているのに気付かないとは。
お休みの日は縁側でくつろぐ白の君の横で絵本を読んだり、書き物をしている姿をよく見るようになりました。
真剣な顔をしている文治郎殿をこっそり尻尾でくすぐったり、その辺りを散歩するお姿なども。
もう、あのようなお二人を見ることは無いと思っておりました。
「兄上、起きてください。」
文治郎殿の声に白の君はゆっくり瞼を開けました。
「神無月が終わります。もう入れ替わってよいのでは?」
「もう、そんな時間か。」
白の君は大きく欠伸をすると伸びをしました。
「大分、お疲れですね。早く休んでください。」
「そうじゃな。ああ」
白の君は思い出したように文治郎殿の顔を見ました。
「今回のことは色々済まなんだ。礼を言う。」
「お役に立てて何よりです。」
文治郎殿は改めて言われた礼に少し驚いた様な顔をしてからニッコリと笑いました。
「…で、それどうする気じゃ。」
文治郎殿の館からはれ様のお部屋に戻られた白の君は眼の前に積まれた荷物を睨みつけております。
わたくしが睨みつけられているわけではないのですが…はい、めちゃくちゃ怖いです。
「どうって、こんちゃんのお土産。」
この空気をサラリと流すはれ様、さすがです。
「だって1ヶ月も留守にしていて戻るんだから、お土産は必要でしょう。」
「こんなに量はいらんじゃろう。多すぎるわ!菓子以外もあるではないか。」
「え?これは、こんちゃんが使っていたベットとお洋服とお気に入りの玩具。で、皆さんも遊ぶかなって。」
なんともなくサラリというはれ様。大物です。
「こいつ等に…ああ、いい。面倒になってきた。」
白の君は深いため息をつくと尻尾を一振しました。
すると目の前にあった荷物は綺麗さっぱり、消えてしまいました。
わたくしもそろそろ御暇したほうがよろしいのでしょう。
「お世話になりました。」
頭をペコリと下げご挨拶をします。
「こんちゃん、またね。」
はれ様はなにの迷いもないような笑顔でわたくしに手を振りました。
お読みいただきありがとうございました。




