『兄上』はどうじゃ?
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「やれやれ、捕まってしまったか。」
白の君はため息交じりにわざとらしくおしゃいました。
文治郎殿はケラケラ笑いながら白の君の尻尾を抱きしめています。
文次郎殿笑えたのですね。
お屋敷に来てからというもの、メソメソ泣いているか下を向いているのどちらかだったので驚きました。
「こら、そんなに強く握るな。尻尾がちぎれてしまう。」
「あ、ごめんなさい。」
文治郎殿は力を緩めたものの、白の君の尻尾を離しません。
いい加減に離しなさい!立場をわきまえなさい!
文治郎殿は離し難いのかそのまま白の君の尻尾を抱きしめ、顔を埋めたりしております。
ええ、そうでしょう。離したくないでしょう。どんな手触りなのか!ああ、後程しっかり白状させます。
白の君は咎めもせず、何故かお優しい目で見ております。
「あ」
鳴り響いた腹の音に文治郎殿の顔が赤く染まりました。
そういえば結構な時間が経っていたのですね。あたりも夕暮れに染まっています。
「腹が減ったか。飯でも食うか。」
「一緒に?」
何と言う図々しさ!お前などと白の君が同じ席で召し上がることなどあるわけ無いでしょうに!
「ああ、一緒にだ。」
ええ〜白の君、どうなさったのです。何故そのような小汚…くはないです。私共がお世話をしているのですから。そんな人の子にお優しくなさるのです!
「いいの?あんたエライ人なんじゃないの?」
「偉い人かどうかは知らんが、この家では父上が一番偉いかな。」
その言葉に文治郎殿は恐る恐る尻尾を離そうとしております。
「そなたは父上が拾ってきて、我が家の養子になったのだから、わしの弟同然じゃ。家族は一緒に食事をして何が悪い。」
「あれ、あんたのお父さんなんだ。大きくて白くてカッコ良かった!」
「まあ、見た目は良い方だからな。」
白の君は口の中でゴニョゴニョ言っておられます。
「しかし『あんた』と呼ばれるのは嫌じゃな。」
白の君は苦笑いをしておられます。
そうでしょう!尊い方に失礼極まりない!不快にするなど万死に値します。
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
「好きに呼べばいい。」
文治郎殿は考え込みました。
「…ポチ。」
「却下。」
「何で。好きに呼んでいいって言った。」
「確かに言ったがの。」
ポチ?ポチって言いました?このガキ!もう眺めている暇などございません。やります。わたくしは戦闘態勢に入りました。
「その名はお前の大切な犬の名前じゃろう?それはそいつにとっておけ。」
白の君!何と言う懐の広さ!わたくし感動いたしました。取り敢えず、手にした武器は元に戻します。
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
文治郎殿は困ったように言いました。
もう、呼び名など気にしなくて良いです。今後絶対、白の君には会わせませんから!こんな失礼なクソガキ、会わせてなるものか!!
「そうじゃな。」
白の君も考え込まれました。
悩む必要なんて無いのです。もう、聞いていられません。夕餉ができたとお呼びして、この話は終わりにさせましょう。
「『兄上』はどうじゃ?」
お声をかけようとしたその時、白の君がおっしゃいました。
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