気が狂いそうな程です
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「暮らしに不自由があるか?」
白の君の言葉に文治郎殿は首を横に振りました。
「飯、美味いし。着る物もくれるし。風呂も入れてくれるし。」
そうでしょうそうでしょう、お世話はバッチリしています!わたくしはうんうんと頷きました。
「でも…」
文次郎殿が何やら言いづらそうです。
『でも』?『でも』とは?わたくしたちはきちんと世話をしてやっています。それでも何か不満が有ると言うのでしょうか。
白の君は続きを促すように文治郎殿の顔を覗き込みました。
「誰もいないの。おれ、一人なの。」
当たり前でしょう。わたくしたちは仕事があるのです。世話をしてやっているだけでも仕事は増えたのに、これ以上何を望むというのでしょう。
「一人は嫌か?寂しいか?」
白の君の言葉に文次郎殿は首を横に振りました。
「少しなら一人は我慢できる。でも」
文次郎殿は膝を抱えて座り込み、顔を伏せてしまいました。そして、本当にカノ泣くような小さな声で
「ずっと一人は嫌なの。」
そう言ったまま、顔を寄せてしまいました。
『一人は嫌』って何を贅沢言っているのでしょう。男がメソメソしているだけでもみっともないのに、戻られてお疲れの白の君に相手をさせるなど以ての外。あるまじき事です。
さっさと回収して、部屋に戻しましょう。
二人の間に入ろうとしたのですが、わたくしは動きを止めました。
顔を伏せて締った文治郎殿の首筋を、白の君が尻尾で擽ったのです。
「ひゃあ!」
文治郎殿は奇声をあげると白の君を勢いよく振り返りました。
「今、何かした?」
「何もしとらんぞ?」
白の君はしれと答えます。
その答えに文治郎殿はまた膝の間に顔を伏せました。
するとまた白の君の尻尾が文治郎殿の首筋を擽ります。
文治郎殿は勢いよく顔を上げて
「今、何かしたよね!?」
「何もしとらんぞ?」
白の君はわざとらしいくらいに大きな欠伸をすると、寢る体制を取られ目を閉じました。
文治郎殿もまた先程と同じように膝の間に顔を伏せました。しかし先ほどとは違い、どこかわくわくしているようです。
そんな中、またこっそり白の君の尻尾が文治郎殿に伸ばされます。
「捕まえた!」
文治郎殿はぱっと立ち上がり、白の君の尻尾を捕まえようとしますが、白の君はするりと躱します。
「待って、もう!」
文治郎殿は尻尾を捕まえようとしますが、白の君はものともせずに華麗に躱します。
これは親狐が子狐にする、遊びを通した狩りの練習によく似ています。
「捕まえた!」
どのくらいの時間が経ったのでしょう。息を軽く弾ませて文治郎殿は白の君の尻尾を両の手に抱きしめました。
本当に、どのらいの時間が経ったのかわからない程でした。羨ましくて!白の君にお相手していただき、その上お体に触れるなど、本当に気が狂いそうな程です。
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