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おかえり、ごん

お越し頂きありがとうございます。

「え?兄上、はれ殿にご挨拶まだしていないのですか?」

 文治郎殿は呆れた様に言いました。

「普段はあんなに挨拶や礼儀にうるさいのに。」

 無いわ〜という響きで文治郎殿が言葉をつなげます。

 煽っている様に聞こえるのは気のせいでしょうか。

 

 文治郎殿の言葉にはれ様も大きく縦に首を何度も振ります。

「でしょう⁉︎文ちゃんも思うよね!人にはあんなに煩く、挨拶は人としての基本だ〜とか、挨拶一つできない奴は他のことも出来ない、とか偉そうに言っているくせに。」

「挨拶を告げたじゃろう!」

「いつ‼︎」

 白の君は一生懸命に思い出そうとしておられる様ですが‥多分、言って無いですね。『一足先に帰ってきた』とは言っておられましたが、挨拶はしていませんね。

 白の君もそれに気が付かれたのか、目を泳がせておられます。

「大体、行く時も何も言わないで行った!」

「あれは急な仕事じゃったから、仕方あるまい。それに、こんに言付けはした。」

「はい!事情はお話ししました!」

 いけません、つい眺めているだけになっておりました。

「それはちゃんとこんちゃんから聞いた。夜遅くに決まったからって。でも」

 はれ様は白の君を睨みつけました。

 

「どんなに忙しくても、連絡の一本くらいできるでしょう!」

 はれ様の目からは涙がこぼれ落ちました。


「心配したんだから。急に居なくなって。こんちゃんから10月が終わったら帰ってくる、て聞いていたけど、ごんってうちでは犬だけど、本当はお狐様じゃん。本当に帰ってくるのかなとか、仕事って嘘でうちでの生活が嫌になったんじゃないかなとか。」

 はれ様は乱暴に目元を拭われました。

 白の君はそんなはれ様を驚いた様に見ています。

「そりゃ、こんちゃんはごんと違って、素直だし意地悪言わないし口うるさくも無いし。」

「‥おい。」

「でも!」

 はれ様は顔を上げて白の君をまっすぐ見ました。

「皮肉屋でも意地悪でも口うるさくても、うちの犬はごんなの!だから、勝手に居なくなるな、馬鹿!」

 はれ様のキレ具合にわたくしもポカーンと口を開けたまま見てしまいました。

 白の君もあっけに取られた様ですが、立ち上がるとはれ様の元に行かれました。

「そうじゃな。わしが悪かった。」

「‥ちゃんと、謝って。」

 はれ様は文治郎殿が差し出したちり紙で目元を吹かれております。

「すまんかった。次に何かある時には必ず連絡をつける様にする。」

「約束だよ。」

「だからもう泣くな。擦ると赤くなる。」

 白の君ははれ様の頬の辺りを舐められました。

「塩辛いな。」

「舐めないでよ。肌が荒れる。」

  

 何でしょう。何かこの場にいるのが邪魔な居た堪れない様な気分になってきました。目の前で、恋仲の2人に見せつけられているような‥

 文治郎殿の目を向けると、わたくしの視線に気がついたのか、肩をすくめました。

「だから言ったでしょう。無駄ですよ、って。」

 そうですね。わたくしが白の君に成り代わるなど、あり得ない事なのですね。

 お二人に目を向けると、泣き止んだはれ様が白の君の耳の辺りを撫でており、かの方も目を細めて好きにさせておられます。

 はれ様は白の君のお顔を両の手で挟み、顔を覗き込む様になさっています。


「おかえり、ごん。

「戻ったぞ、はれ。」


 はれ様はとびっきりの笑顔でした。


お読みいただきありがとうございました

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