無駄ですよ
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かき氷?とは。
わたくしの記憶では女子供が喜んで食べるものとの認識が強いものですが。
思いのままを文治郎殿にぶつけると、深いため息をつかれました。
「ひと月の間何をなさっていたのです。はれ殿がよく言っていませんでしたか?『季節限定』とか『数量限定』とか。」
文治郎殿の返答に気に触るところはありましたが、はれ様はそのような言葉をよう言っておられました。
しかし、氷菓子に期間限定?元々夏の食べ物で、期間限定は当たり前なのでは?
「かき氷の店は夏限定の店が多いです。その限定の店の、これまた数量限定のものがあるのです。」
「‥中々手に入れるのが難しそうですね。」
わたくしの言葉に、文治郎殿は重々しく頷きました。
「かなりの時間を並び、やっと店に入ったものの、希望の品がもう売り切れて無いことも多々あるそうです。たまたま、兄上とはれ殿がお出かけになり、たまたま、さるお方が行きたがっていたらしいお店に入り、これまたたまたま、限定のその方がお目当てのものを食べたそうです。」
『たまたま』という言葉が恐ろしく聞こえるのは気のせいでしょうか。
「何故かたまたま、そのことがその方の耳に入り、連れて行けと強請られるも、たまたまーかどうかは分かりませんが予定が合わずに、やっと行けたと思ったら、期間限定のその店は予定よりも早く閉店してしまっていたそうです。」
「あー」
何というか‥目の奥に白の君の上司様のお顔チラつきます。お休みの次の日、滅茶苦茶機嫌が悪い日があったと聞いたことがあったような。
少し遠い目をしてしまいます。
「それで、たまたま今回の出雲行きで欠員が出来たので、兄上を引きずり込んだ、と。」
白の君の同行が決まったのは、前日の夜遅くだった事を思い出しました。あれはこういう事だったんですね。
「しかし。」
文治郎殿は軽く咳払いをしました。
「その強引に進めた出雲行きの所為で、はれ殿にも危険が及んでしまいましたからね。兄上もかなりお怒りですぐに戻って来られましたよ。」
そうです。本来なら日付が明日になるまで、白の君はご帰宅なさらない予定だったのです。それを押して帰ってこられたのですから、よほどの危機だったのです。
今更ながら、冷や水を浴びたような気持ちになってしまいました。
申し訳ない気持ちではれ様に目を向けるとーまだ、白の君との舌戦を繰り広げておられます。
「あのー止めなくて良いのですか?」
「いいのです。」
文治郎殿は一緒に持ってきていたお茶を啜っておりました。
「このまま、取り返しのつかない事になったりしたら。」
「大丈夫です。そのうち、案じていたのが馬鹿らしくなりますよ。」
文治郎殿は四角い機械を取り出し、それを弄り出しました。
そんな余裕の態度でいて良いのでしょうか。お二人がこれで仲違いなどされたら‥仲違いされたら?
もし、その様な事態になったら、わたくしはずっとはれ様のお側に居られるのでは?
「無駄ですよ。」
わたくしの黒い気持ちが分かっているかの様に、文治郎殿はいつの間にか機械から目を離し、わたくしを見つめていました。
「無駄とは、いえ、わたくしは何も。」
思いを見透かされた様で、ついワタワタしてしまいます。
文治郎殿は「これでよし」と機械をズボンのポケットにしまいました。
「何となく考えていることが分かります。期待したのでしょう?このままここに、と」
どうして分かったのでしょう。
「でも!」
「2人をもう少し見ていてください。」
文治郎殿に促され、わたくしはお二人のやり取りを聞くことにしました。
「だから!何を謝れというんじゃ!」
「自覚ないの⁉︎さいってー‼︎」
「何が最低じゃ!分かる様に話もできぬのか‼︎」
白の君もお疲れのせいか、雰囲気が荒んでいる様に見えます。
「何も言わずに分かれなど、ただの甘えじゃ。言いたいことがあるならはっきり言え。」
白の君の言葉に、はれ様はかの君をきつく睨まれました。
「何じゃ、その目つきは。言えぬのか。言えぬならこの話は終いじゃな。」
くわーと欠伸をなさった白の君に、はれ様は手元にあった座布団を投げつけられました。今回は白の君もひょいと避けられました。
「物を投げるな!口で言わんか!」
「言ってないのは、ごんじゃん‼︎」
はれ様は今にも泣きそうなお顔をしています。
「だから、何を。」
「『ただいま』って言ってない!」
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