申し訳ありません
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川の中から伸びてきている白い手は数えきれないほどのものでした。
でも、伸びている手が全てはれ様の元に届いているわけではありません。おそらく、力のあるものしかここまで伸ばすことはできないのでしょう。
ならば、まだ手段はあります。
「はれ様、歩くことは無理でも屈むことは出来ますか?」
「屈む?うん、それなら多分。」
はれ様は恐る恐る膝を折しゃがみ込む体制になって下さり、わたくしはトコトコとその膝によじ登りました。
「こんを抱っこして、立ち上がることは出来ますか?」
はれ様はわたくしを抱き抱え、静かに立ち上がりました。
「では、こんを肩の上に置いて下さい。」
「こんちゃん?」
はれ様はわたくしを肩の上に乗せて下さいました。
高い位置で見ると、たくさんの白い手がはれ様を捕まえようとこちらに集まったいるのがよく見えます。
「はれ様、合図をしたらこんから手を離して下さい。でも、手綱は決して離さないでください。」
「こんちゃん、何をする気なの?」
はれ様の問いに、今は答える時間はないようです。
「はれ様、手を離して下さい!」
はれ様は肩でわたくしを抑えていた手を戸惑いながらも離しました。
わたくしははれ様の肩を後ろ足で蹴り、勢いをつけて白い手どもに飛び込みました。
あるものはこの牙で、あるものは爪で引き裂き、形成不利と悟った奴らは引いていきました。
しかし、まだ油断はできません。
「はれ様、今のうちです。先を急ぎましょう。」
はれ様はこくりと頷き、足を動かせ、わたくしたちは小走りで前に進み出しました。
またあやつらが現れるかもしれません。出来るだけ早くこの場を離れた方が良いでしょう。
「こんちゃん強いんだね。」
軽く息を弾ませながらはれ様が話しかけてくださいます。
「そうなのです!こんは強いのです!」
戯けたように言うと、はれ様はくすりとわらいました。
笑えることは良いことです。どんな時でも。
「さあはれ様、出口はもう少しです。急ぎましょう。」
「うん、え?」
もっと足を早めようとすると、何かを被せられ身動きが取れなくなりました。被せられているものをよく見ると、無数の手が網のようにわたくしを覆っているのです。
「こんちゃん!」
はれ様がわたくしに走り寄り、白い手どもを引き剥がそうとしてくださるのが見えます。そんな事してくれなくて良いのです!
「はれ様、お逃げ下さい!このまま真っ直ぐに進めば出られるはずです‼︎」
「駄目だよ!こんちゃんを置いて行けないよ‼︎」
白い手どもは後ろからまたもや伸びてきております。
「こんは大丈夫なのです!」
「全然大丈夫じゃないじゃん!逃げるなら一緒だよ‼︎」
はれ様、本当に良いのです。わたくしは白の君の元にお仕えする名もなきもの、有象無象のものなのです。
わたくしがいなくなっても何も変わらずことが過ぎていくのです。いなくなった事すら気が付かれないほどのモノなのです。だから‥
わたくしなぞ、と言いながらここまで我が身を案じてくださるはれ様の姿に喜びを感じている己もいます。
こんな醜いわたくしに‥だからこそはれ様は無事にお帰り頂かねば。
わたくしは最後の力を振り絞り、意識を全て集中させ体の中の『気』を放ち、白い手を飛ばしました。
「はれ様!」
はれ様を振り向きわたくしは息を飲みました。
いつの間にかはれ様は全身が白い手に覆われ、お姿が見えないほどになっていました。
わたくしはヘナヘナとその場に座り込んでしまいました。
間に合わなかったのです。お守り出来なかったのです。
「はれ様‥」
呟くわたくしを白い手がまた幾本も伸びてきて自由を奪います。
もう、いいのです。せめてものお詫びに、わたくしもお供いたします。ああ、でも。
「申し訳ありません、白の君。」
わたくしは目を閉じて、全てを受け入れようとしました。
その時、目を閉じていてもわかるほどの閃光が走ったのです。
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