元来た道を戻りましょう
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後に文治郎殿にお聞きしたのですが、あの日お会いしたのは偶然ではなかったとのことです。
偶々、わたくしとはれ様が散歩に出かけるのを見かけ、中々戻らないので迎えに来てくれたそうです。
「よく場所が分かりましたね。」
とお聞きすると、スマホとやらを取り出し、
「神の技のような術がございますので。」
と、申しておりました。
彼が人界に戻りまだほんの僅かの日々しか経って居らぬのに、人の成長とは早いものだと、しみじみ思いました。
しかし、その『術』とやらを聞いてみても、笑顔でかわされ何も教えてくれませんでした。
色々なことがございましたが、神無月も本日で終わりです。
そこでわたくしも隙が出てしまったのでしょう。
「ねえ、こんちゃん。ここどこなんだろう‥」
はれ様が困ったようにわたくしに呟きます。
はれ様がわからない道をわたくしが分かるわけありません。
いつもの散歩道を曲がったわたくしたちの目の前には、大きな川が流れていました。
やられました。わたくしは己の迂闊さに心の中で絶賛歯軋り中でございます。
「曲がり角を間違えたのでしょう。」
言葉はあっさりと、何も心配ないように紡ぎます。
「でも、こんな大きな川、うちの近くにはないよ。」
はれ様の家の近くに川は流れておりますが、確かにこのような川ではありません。城下町に合わせたような、ちょっと古風な橋がかかっているものです。
目の前に流れている川は、向こう岸がやっと見えるほどのものです。川の雰囲気も表面的には綺麗ですが、嫌な雰囲気が漂っております。
この場は一刻も早く離れた方が良さそうです。
「道を間違えたら戻れば良いのです。」
「そうだね、こんちゃん。」
何かを感じ取ってか不安そうな表情をしながらも、はれ様はわたくしににっこり笑いかけてくださいました。
「そうです、戻りましょう。」
道を戻ろう、と振り返ったわたくしたちは言葉を失いました。
なぜなら、振り返った先は暗闇が広がっていたのです。
「え、これどうゆうこと?」
はれ様の声が困惑を含んでいます。
それはそうでしょう。先程まで歩いてきた道は何も見えない闇になっていたにですから。
「どうしよう。帰れないの?」
「大丈夫ですよ、はれ様。こんは鼻が効くのです。来た道は分かりますから、手綱をしっかり握っていて下さいね。」
わたくしは必死で気配を探ります。ヘタをするとこのまま迷い続ける事になりかねません。
意識を凝らし、風の流れを読みます。澱んでねっとりした気配の中、僅かに‥ほんの僅かな流れを見つけました。
「はれ様、行きましょう。」
急足で進みましたが、手綱は引っ張られるばかりではれ様の動く気配がありません。
「はれ様?」
「こんちゃん、どうしよう。体が動かないの。」
振り返ったわたくしの目に映ったのは、川から伸びてきた無数手がはれ様の体を捕まえ、身動きを取れなくしておりました。
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