拾い物
お越しいただきありがとうございます。
はれ様をお守りすることにあたってのお言い付け。
その1 はれ様が拾ってくるものには気をつけること。
白の君からのお言葉に、当初はれ様は幼子だと思っておりました。お会いしてみると、もう成人も過ぎた大人でー無論我々の感覚からすれば、生まれたばかりのようなお年ではあるのですが、もう拾い物などをしてくるような年齢ではないようにお見受けしました。
それとも、食料にする木の実や薪にする木々を拾い集めて来られるのでしょうか。その中に害があるものが混ざり込んでいるのでしょうか。
もしそうなら大変危険な事です。
今、はれ様は『大学』とやらにお出かけになっております。わたくしもご一緒しなくてよろしかったのでしょうか。
白の君からは同行の必要はないと申し付けられておりますが、日も暮れて辺りも薄暗くなってきております。段々心配になってまいりました。
「ただいま。」
はれ様の声が聞こえたと思ったら、扉を開けてはれ様がおいでになりました。お戻りになられたようです。
「はれ様、おかえりなさいませ!」
「ただいま、こんちゃん。」
安堵感で走り寄ったわたくしをはれ様は抱き上げ、そのまま椅子にお座りになりました。そして、ニコニコしながら横においた鞄の中から何やらを取り出しだし、嬉しそうにわたくしに見せてくださったのです。
「首輪、ごんの使っても良かったんだけど、似合いそうだから買ってきちゃった。」
「わあ、ありがとうございます。」
正直なところ、首輪など興味はないしつけたいとも思いませんが、これが「まなー」だと白の君から伺っておりますので。郷に入っては郷に従うということでございます。
「ちょっと待ってね、タグ切るからね。お揃いのリードも買った来たんだ。」
何が楽しいのかは分かりませんが、ご機嫌で鋏を探すはれ様は可愛らしくて微笑ましいです。
なのですがーはれ様の上着の井納、今風に言うとポケットから何やら気配がしております。
「よーし、着けるよ。」
「ありがとうございます。」
「こんちゃん、美人さんだから何でも似合うよね。」
美人さんって‥この姿はあくまで仮のもので白の君に似せて作られているものなのですが、褒められて嫌な気はしません。
お礼にはれ様の指先をぺろぺろ舐めさせていただきます。
で、ここからが本題。
「はれ様、ぽけっとに何か入っているのではありませんか?」
「あれ?こんちゃん、何で知っているの?」
はれ様はポケットを探り、小さな白い石のようなものを取り出して、わたくしに見せました。
「今日ね、空き時間に散歩していたら見つけたんだ。なんか呼ばれたような気がしてね。綺麗でしょう。」
「真っ白ですね。」
わたくしはくんくん匂いを嗅ぐふりをしました。そして、さも気付いたようにお伝えしました。
「はれ様、これは虫の卵ではありませんか?」
わたくしの言葉にはれ様は目を丸くしました。
「え?でもこんなに硬いし綺麗な白だよ?」
「目立たないところにあったのでは?」
「あー言われてみればそうかも。」
はれ様は思い出すようにおっしゃいました。
「おそらく、外敵から守るために目立たない場所にあったのでしょう。」
「あーじゃあ、悪いことしちゃったかな。明日、拾ってきた場所に戻してくるよ。」
「いいえ。」
白い石モドキをまたぽけっとに仕舞おうとしたはれ様をお止めします。
「見たところ、卵から孵るのも近いように思えます。もし、今晩にでも孵ったら子虫がたくさん出てきますよ。」
「うわ、それ嫌だ。」
眉を顰めるはれ様。どうやら子虫が溢れ出ているところを想像したでしょう。わたくしははれ様に提案をいたします。
「今晩はお庭に置いて置いたら如何でしょうか。外でしたら卵が孵っても心配はないのでは?」
はれ様は少し考えるような表情になりましたが、すぐに立ち上がり
「そうだね。そうしよう。」
はれ様は立ち上がり扉の方に歩き出し、わたくしもその後に続きます。花壇の隅に卵を置くと「これでいいか。」と小さく呟かれました。
「こんちゃん、ついでにお散歩行こうか。」
「はい!ぜひに!」
尻尾を振って、喜んでいる素振りをお見せするとはれ様もにっこり笑って、お散歩グッズとやらを取りにお部屋に戻られました。
わたくしは誰もいないのを確認すると花壇の隅に置かれた白い石もどきに近づきました。
「気づかれぬと思うておられましたか?」
白い石はほんの少しだけ動いたように思えました。
「あの方が居らぬから、入り込めると?喰えると?」
白い石は一瞬にしておぞましい気配をあからさまにし、黒い霧のようなものをわたくしに向かって放ちました。
わたくしは尻尾を一振りし、黒い霧を散らし、前足に力を込め白い石だったものを踏み潰しました。
固かったはずの石は真っ二つに割れ、塵となり消えていきました。
これが、白の君のおっしゃっていたはれ様の拾い物ですか‥この程度のものでよかったいえば良かったのですが。
「こんちゃん、おまたせ。お散歩行こう。」
弾けるような笑顔でお散歩セットとやらを持ってきたはれ様。
「はい!行きましょう!」
白の君がご不在の間、毎日の点検を自分に言い聞かせました。
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