はあ、まあ、よろしく?
お越しいただきありがとうございます。
「いつになったら涼しくなるのかな。」
カーテンを開けたものの強い日差しにもう一度締め直す。
うーんと伸びをして、着替えを済ませてからリビングに移動する。最近始めたバイトで昨夜は遅くなり、ごんの顔を見ていないのに気付く。
今日は時間の余裕があるから、ご飯を食べたら散歩でも連れて行こうと思っていると、ごんのゲージにしがみつくようにしている母がいた。
「何してるの?」
「ああ、はれ、おはよう。」
母は振り向きもせずゲージにしがみついたままだ。視線はクレートの中に入っているごんに向けられているようだ。
「どうしたの?」
「ごんちゃんの様子がおかしいの。」
母はやっとわたしの方を見た。
「おかしいって、何が?」
元々普通の犬とは違うから今更のような気もするけど、お母さんの前では『普通の犬』をしているからなあ、あいつ。
「お散歩にも行きたがらないし、クレートから出てこないし、第一ご飯を食べないの。」
「え?ごんが⁉︎」
我が家に来てからお散歩大好き、食べるの大好きのごんが⁉︎何があったんだろう?
「でしょう?だから病院連れて行こうかなって。」
病院、うん病院ね。連れて行っても意味があるのかな?あいつ、一応お狐様だし。
「まだ病院開くまで時間あるじゃん。様子見たら?」
母は壁に掛けている時計をチラリと見て立ち上がった。
「混むから早めに行こうと思っているんだけど‥はれ、今日時間ある?」
「いいよ。病院行くなら付き合うよ。」
その時、洗濯機の洗濯終了の音楽が鳴り、母は心配そうな顔をしながら立ち上がり、洗面所に向かって行った。
わたしは母がいなくなったのを確認してから、クレートに入りこちらに背を向け丸くなっているごんに声をかける。
「お母さん、行ったよ。」
ごんの体がびくりと動いたが、顔を上げようとしない。
どうしたんだろう。聞こえているよね?
「ご飯食べないの?」
「‥‥」
「何か嫌なことでもあったの?」
「‥‥」
「このままだと病院に連れて行かれて注射打つことになるよ?」
「‥‥」
『注射』の言葉にびくりとしたようだが、それでも出てこようとしない。
仕方がない。わたしはクレートの奥に手を突っ込んでゴンの体を掴み、強制的に引き摺り出した。
ごんは足をジタバタさせて暴れている。
ん?あれ?
「何をするんです‥じゃ!」
片手で抱っこできるくらいの大きさ。少し硬いけど気持ちのいい毛皮の感触。いつもと変わらないもふもふサンなのだけど。
わたしは顔の高さまでゴンを抱き上げ目を合わせた。
「あんた、誰。」
金色の目が逸らされた。
「はあ、出張?」
こんちゃんはこくりと頷いた。
「神無月ですので、出雲の国に行かれました。」
ごんの代わりとうちによこされたこの子に「好きなようにお呼びください!」と言われたが、全然違う名前で呼ぶと家族に不振がられるので「こん」と呼ぶことにした。
「神無月って‥ああ、今日から10月か。」
時の流れは早いな。ごんがうちに来てから半年になるんだ。ん?
「出雲の国ってアレ?神無月に日本中の神々が集まるってやつ?」
こんちゃんはこくりと頷いた。
「この度、白の君は稲荷大明神のお供としてご出立しました。」
「ごん、何も言ってなかったよ?」
ちょっと面白くない。
「その、決まったのが昨夜で‥」
こんちゃんは体を縮こませ、消えるような声で言った。脳裏に以前会ったごんの上司とやらを思い浮かべて、何となく納得する。
「しかし!ご安心ください‼︎白の君からはれ様のお世話をするように言いつかっております‼︎何も、ご不自由はお掛けしません!!!!」
ここぞとばかり力強く言うこんちゃんにちょっと引いてしまう。けど。
「はあ、まあ、よろしく?」
「はい!よろしくお願いします‼︎」
こんちゃんは嬉しそうに尻尾をパタパタ振った。
しかし、わたしの世話って‥何なの?
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