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急げぶん!

お越しいただきありがとうございます。

 

 待つこと、約30分。インターフォンが鳴り文治郎はいそいそと応対に向かった。

 がくは文治郎が用意した酒坏に酒を入れ、ついでにとごんの酒坏にも酒を注いだ。

「のう。」

「ん?」

 がくの仕草を見つめながらごんが問いかけた。


「お前は本当にただの人間なのか?」


「またその話?終わったんじゃなかったのか。」

 がくはふーとため息を付いた。

「普通の人間だって言っても納得しなさそうだよな。」

「はれのことで慣れていると言っておったが、慣れ過ぎじゃ。」

 あのようなことに遭遇した人間がこうも落ち着いていることはまず無い。動揺や怯えなどが多少なりともあっておかしくないのに、眼の前のがくは落ち着いているように見える。

「いや、びっくりしたよ?この上なく。」

 がくは小皿に乗った塩をつまむと口に入れ、盃に入った酒をチビリと口に入れた。

「清めってこんなんでいいの?」

 ごんはがくを見つめたままコクリと頷いた。 

 ごんが自分を見据えているのに、がくは諦めたように息を吐いた。

「本当に普通の人間。だと思う。」

「なにゆえ『だと思う』なのじゃ?」

「だって、確証ないから。」


 がくは『幽霊』というものをはっきり見たことはない。ただ、気持ちの悪い気配を感じたり、視界の端っこに変なものが見える時があった。

「それが何か確かめようと思って見直しても、消えてて見えないんだけどね。」

 ただ相手によっては触れられない時がある。触れられないと言うか、触ると悪寒が走るのだ。

「まあ、人に限らず物とか場所とかもそうなんだけどね。俺はなんでそうなってるか理由がわからない。あれ等がいわゆる『幽霊』ってものかもしれないけど、本当のことは分からない。だから、普通の人間でいい。」

「教えてやろうか?『それ』が何か。」

 ごんの言葉にがくはぶんぶんと首を横に振った。

「嫌だよ。幽霊だったら怖いじゃん。」

「そうか。」

「がく殿、戸を開けてくだされ。」

 ウキウキと配達されたものを両手に文治郎の声がした。がくは「はいはい」と立がくがち上がり、扉を開けてやり、商品を二人で取り出しだした。


 その様子を眺め、ごんは目をほんの少し細くしがくを見やる。

「『怖い』か。わしはお主のような存在のほうが恐ろしがな。」

 二人に聞こえないように呟く。

 ごんが見たところ、がくは退魔の力を持っているらしい。それもかなり強力で近寄る悪しき者たちを無意識でぶった切っているような感じだ。がくの纏う気配が何処と無く冷たく感じるのもそのせいだろう。

 このような者が近くにいたお陰で、はれは何とか今まで無事に過ごせてきたのだろう。がくが家を出てからは、かすかに未だに気配が残る先代犬のげんとやらが守っていたらしい。

 この兄妹の拾い物は本当に恐ろしい。げんも純粋な犬だったのか何かの血脈だったのかそれはもう調べるすべはないが。


「あれ?ピザ頼まなかったのか」

 届いた商品を広げ終わりがくが声を上げた。注文するとき、がくはサイトを開いたスマホを文治郎に渡し、自分はトイレに行っていたので内容まで確認していなかったのだ。

「なんと!?」

「あ…」

 眼の前の料理を見て愕然とする一人と一匹。きのことベーコンのパスタ、スティックサラダ、フレンチフライにフインガーチキン、そして三種のデザート。

「見事にサイドばっか。」

 がくは苦笑した。

「ぶん!何という失態じゃ!!」

「兄上が注文している横で煩くあれ食べたいこれ食べたい騒ぐから!」

「いいじゃん、ウマそうだし食おうぜ。」

 がくは料理に手を伸ばそうとしたが、二人の恨みがましい視線に気づく。

「何だよ。また今度頼めば良いじゃん。」

「…今度っていつ。」

「家でピザとっても、はれ絶対食べさせてくれないんじゃ。何が入っているか分からないから駄目って。わし、お狐様だから大丈夫って言っても、狐はイヌ科だから玉ねぎとか心配って。」

「あーあいつ言いそう。」

 がくは苦笑いをした。

「ピザ…」

「やっと念願叶うと…」

 男二人の涙目にがくは伸ばしたてを引っ込め、観念したように言った。

「分かった。文さん、スマホ出せ。今後のこともあるから、アプリの入れ方と注文の仕方教えてやる。」

「え?わたしが!?」

「早くしねえと最終オーダー間に合わねえぞ。」

「ぶん、急げ!」

「ひえ〜!!」






 

お読みいただきありがとうございました。

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