100分の1
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「俺、そんなに分かりやすかった?」
楽は招き入れられたリビングでごんを降ろした。ごんは体をぶるんと震わせると、伸びをして近くにあったクッションに乗った。
「いえ、はれ殿がお散歩セットを忘れていったし、何よりあの薛明では納得していないと思ってましたから。」
文治郎の言葉にがくは苦笑した。
「ごんがあんたの実家で昔飼っていた犬にそっくりで、その犬に名前が『兄上』で、ついその名前を言ってしまう、ってやつ?」
「それで許してもらえませんか?」
理由、話したくないんですよね。文治郎は穏やかな微笑みを浮かべてみせた。
「いや、無理。」
さっさと話せと、がくもにっこり微笑んだ。
「突っ込まれたくないならそれなりの嘘を考えろよ。100人中99人は信じない。」
「おや、一人は信じてくれるんですね?じゃあ、その一人になる気はありませんか。」
「無理。その一人枠は、うちの妹の枠だ。」
そこですっとがくの目線が厳しくなった。
「さっさと吐け。何を企んでいる。お前、何者だ。」
辺りに薄っすらと冷気が漂っているのに文治郎は気がついた。
「わしも聞きたい。おぬし、何者じゃ?」
丸くなって眠ったとばかり思っていたごんが、射抜くような目でがくを見ていた。
がくはごんが話したことに気がつくと、目を丸くしてごんを見つめた。ごんはそれに構わず続けた。
「おぬし、入り込んだはれと出てきたよな。どうやってあの『界』に入り込むことができたのじゃ。」
がくは文治郎が止める間もなくごんを掴んだ。そして、口をパカリと開かせ、中をまじまじと見た。
「あがががが!」
「いま、喋ったよな?声帯どうなってんの?
「うわ!兄上!」
「止めんか、この痴れ者が!」
ごんは暴れて郭の手の中から逃げ出した。
「この兄妹は!変なところだけ似おって!」
ごんは文治郎の膝に逃げ込み、ガルルとがくを睨みつけた。
「いや、だって犬が喋るなんて無いじゃん。びっくりするじゃん。口ん中見たくなるじゃん。」
「それはお前ら兄妹ぐらいじゃ!」
まったく、とごんは呆れたようにためいきをついた。
「話を戻す。おぬし何者じゃ?」
「順番違くね?先に聞いたの、俺よ?」
「兄上に何と無礼な!」
ごんは口を挟んだ文治郎を目線で黙らせた。
「わしか?わしははれに拾われたお狐様じゃ。」
「は?」
がくは目を丸くした。ごんは構わず話を続けた。
「はれが我が社に迷い込んできてな。応対したぶんが『振り返らずにまっすぐ帰れ』と忠告したのに、あやつ社を出てすぐ振り向いたのよ。」
『振り向いてはいけない』各国の神話や伝承にも出てくる。これは脅しでもなんでもない。一つの決まり事だ。
決まりを守れたなら元の場所に帰れる。決まりを破ったらー
「迷い込んだとはいえ我が社に参ってくれた者を見殺しにするのは忍びなく、あやつが手を清めたとき手水を口に含んでいたのでな、我が手下のものとして一緒に『道』を駆けたのじゃ。わしの存在があると分かりつつも、それでも手を出そうとしてくるやつもおったがな。」
「わたしは兄上の家の養子です。その昔に兄上の言う『界』に入り込み、戻ることが出来なくなり彷徨っているところを父上ー兄上の父君に保護されました。」
「まあ、実質育てたのはわしじゃがな。」
話を聞いてしばらく黙り込んでいたがくは、はあ、と重いため息をついた。
「お狐様って…あいつ、何拾ってきてんの。」
「思いの外冷静じゃな。」
「まあ、慣れてるんで。」
「我らは答えた。次はお主の番じゃ。」
「俺の番、ってもなー」
がくは自分の頭をガシガシと掻いた。
「俺は普通の人間よ?」
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