鼻がききます
お越しいただきありがとうございます。
「『道』が開いている?」
番の者がぷっと吹き出した。
「開いていて当然であろう。今宵は祭りぞ。皆様をお招きするのに沢山の『道』が開いていおるわさ。」
「各方が来られる『道』では御座いません。逢魔ヶ時の道が開いております。」
当たり前の事を言うなとばかりの口調に、苛立ちが滲まないように出来るだけ穏やかな口調で返す。
反論が番のものの気に障ったようだ。
「ここをどこt思っておる!鬼門を護る御神の社ぞ!!」
「あー確かに開いておるな。」
ごんの前にしゃがみこんでいた主が立ち上がり、妙に人間臭い仕草で頭をポリポリとかいた。
「主!?」
「巧妙に隠されておる。そなた、よう気がついたな。」
「…鼻が効きますゆえ。」
ごんの応えに主は面白そうに口元を歪ませ、両の手をたたこうとした。「逢魔ヶ時の道」閉じようとしているのであろう。
ごんは慌てた。
「どうか、今しばらくお待ちを。」
「何じゃ。早う閉じろと言うたのはそなたであろう。」
「縁が有りしものが逢魔の道に入り込んでおります。どうかその者を連れ出すまで少しばかりお時間を頂きたく!」
「そのようなことは知らん。」
主はつまらなそうに言い放った。
「入り込んだのは大方、一族の者なのであろう?ならば『あちら』の界で保護すれば良い。」
十分に間に合うはずだと言外に言われている。『あちらの界の者』ならそれで済む。
「いえ、入りこまされたのは人の子にございます!」
はれは人間、つまり「人の子」だ。しかも巫女の血筋となると無事に保護できるか、かなり難しくなる。
「人の子の一人や二人、居なくなってもどうにでもなるであろう。」
「そこをどうか!」
神と言われる者たちからすれば、短い時間しか生きることのできない人間やこの「界」のものにはあまり執着がない。全体としては妙なことを不可解な事をする者共と思っているくらいで、個人に興味を持つことはかなり少ない。
「黙れ、子狐が。」
番をしていた者が主とごんの間に入り込んだ。
「黙って聞いて居ればいいたい放題。たかが人の子一人居なくなってもどうにでもなる。そなた、この大切な祭をつまらぬことで穢していると分からんのか!」
「穢すなど、そのようなことは決して」
「黙れ!招かれてもおらぬのに神聖なるこの場の現れ、主に無礼な行いをし、それでまだ強請るとは!」
「罰は後からいくらでも受けさせていただきます。しかし、今はどうか!」
頭を必死に下げながら、ごんははれに詫びた。
すまん、わしでは無理なようじゃ。出来ることなら少しでも時間をもらい、お前を探し家に返してやりたかった。
「だまれ、白の。」
凛とした少女の声が辺りに響いた。
「おお、これはこれは御倉の神様。ようお越しくださった。」
現れたのはまだ子どもと言っても良いような見かけの女子だった。しかし、周りに纏う空気は清廉で美しさまで感じられるほどのものだった。
「お招きをありがとう、この地の守護の方。」
少女、御倉の神は祭りの主に笑みを向け、そしてすぐに頭を下げた。
「我が手下の者が大変な無礼を働き申し訳なかった。」
祭りの主は頭を下げられ慌てたように首を振った。
「無礼など何も!ただ挨拶に来られただけで!」
「だが、無理な願いをしていたようでは?」
御倉の神はいつの間にかごんのまえに来て、ごんの背を叩き頭を上げるように言った。そしてごんの目をじっと見つめた。
「何があった?」
ごんが口を開こうとすると、祭りの主は態とらしく咳払いをした。
「あー祭りのいざこざを見つけ、それを伝えに来られただけで。」
「なんと、このはれの日にイザコザとな!」
御倉の神は驚いたような声を上げた。
「それは一大事ではないか!どのようなことがあったのじゃ!われも助太刀いたすぞ!!」
「そのようなこと、滅相もない!」
祭りの主は慌てたように首を振った。
「しかし、この地のものとして」
「知らせに来たこの者が詳しいようでの。今から任せようとしていたところで!」
主は懐から何かを取り出し空に放った。それは、キラキラと光り輝いた。
「光を辿っていくがいい。さあ、御倉様、どうぞこちらに。」
ごんに伝え、ウキウキと御倉の神を宮の中に招いた。
進みながらちらりとこちらを見た御倉の神は、シッシという感じでごんに手を振った。早く行け、と。
ごんは頭を下げると、光を追って走り出した。
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