おくちペロペロ
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ごんは慌てて飛び起きてキョロキョロと辺りを見回した。
はれはどこに行くといっていた?気配を探ろうとしても、今日はいつもの「気」とどこか違い、何故かざわついている。
「兄上?」
台所からお茶を持って来た文治郎がごんの余裕のない態度に不思議そうに声をかける。
「ぶん、はれを探せ。」
「はれ殿?先ほど薬屋に行かれたのでは?」
ただならぬごんの態度に文治郎は持って来たお茶をテーブルに置く。
「はれが消えた。ひょっとしたら『道』開いたかもしれぬ。」
「『道』が!?」
「今日はなんなのじゃ!『気』がいつもと違う!!何があったんじゃ!!」
「何かって‥あ」
「なんぞ思い当たることがあるのか。」
「近くの神社で大祭があったはずです。」
文治郎の言葉にごんは「しまった」という顔をした。
今は昼と夜に堺の時間。いわゆる『夕方』と言われる時間帯だが『逢魔ヶ時』でもある。しかも祭りであちらの界からの『客』も多い。
開き閉じられた『道』も多くあり、もしはれが迷い込んでいるのならどの『道』なのか検討をつけるのも難しい。
「何ということじゃ。よりによって今日は…」
「兄上?」
「時間が合わなくて、今日に限っておくちペロペロをしていないんじゃ!」
「………あんた、この非常時かもしれないときに何言ってんです。」
文治郎のごんを見る目が冷たくなった。百年の恋も冷めた後の目つきとはこれだ、と言えそうなくらいの冷たさだった。
「あほう。おくちペロペロはな、印じゃ。わしの手下という所謂の証じゃ。」
「ちょっと待ってください。何でそんなものが必要なんです。はれ殿はただの『人』でしょう?」
一緒に過ごして何となく分かった。はれには霊を感じる力や神力といったものはあまり無い。ただ、一緒にいると何となく心地がよく、まとっている空気が奇麗な気がする。
「おそらくじゃが、アレは『巫女』の血筋じゃ。」
「は?」
『巫女』古より神に仕え、神の言葉を民に知らしめる存在。ただ、その血筋故に力を求めるモノのに狩られたり、異質なものとして贄にされることも多々あったらしい。
「巫女の血筋なら、よくまあここまで何事もなく生きてこれましたね。」
「何事も無かったわけで無いのじゃろうが、強力な『護り』がいたのじゃろうな。」
はれにはごんの先達にあたる「げん」の思いが残っている。ただ、そのレベルでは今まで護りきれてはこなかったはずだ。
「この話はあとじゃ。今ははれの身を探さねばならぬ。お前はこのあたりを探してほしい。」
「兄上は?あの方にお願いするのですか?」
「今からでは間に合わん。それに、上を巻き込むと祭に穢したと諍いになっても困る。」
「じゃあ、どうするんです!」
ごんは少し俯向いてから、ゆっくり顔を上げ不敵に笑ってみせた。
「祭りじゃからな。多少の無礼は許してもらおうか。」
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