秋といえども名ばかりの
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早いものでカレンダーの上ではもう秋になっていた。とはいえ、実際のところは、まだねっとりと湿気を含んだ暑さが続いている。
「出かけるのか?」
ウトウトしていたごんの横を通ると、目が覚めたのかゆっくり顔を上げた。
「ごめん、起こした?」
ごんはくわーと欠伸をした。
「まどろんでいただけじゃ。この暑さは疲れる。」
「ほとんど家の中にいるじゃん。」
クーラがついているし。
「それでも暑いものは暑い。」
贅沢だな、こいつ。あ。
頭にふとよぎったことを口に出す。
「ぶんちゃん、エアコンちゃんとつけてるよね?」
「…多分?」
「様子見に行こうか。」
わたしはごんを抱っこした。歩かせてもいいのだけど、この時間はアスファルトが熱いから火傷の心配がある。
隣に引っ越してきた稲口文治郎さん。愛称で呼ぶくらいには親しくなった。
まあ、うん。でもお世話も色々大変だった。異世界転生とか異世界スリップの小説、わたしもよく読んでいるけど、彼も所謂それにあたると思うんだよね。便利な世界から不便な世界行くって大変だなって常々思ってはいたけど、いきなり便利な世界に来るのも中々適応が難しいと言うか、見るものすべてが魔法のように感じるらしくて、それを使う事への抵抗とか胡散臭さがどうもあったらしい。
「こんにちは。」
インターホンを鳴らして挨拶をすると、玄関が音もなく開いた。わたしは腕の中のゴンを軽く睨んだ。
「駄目だよ。勝手に開けたら。」
ごんはふんと鼻を鳴らした。
「わしを待たせるなぞ100年早いんじゃ。」
「だからって、ぶんちゃんにもプライバシーあるんだし。」
「また倒れていたら厄介じゃろう。」
鍵のかかった扉が勝手に空いたのは、ごんの「特技」だそうだ。
数日前、おすそ分けに来たら返事がなくて出掛けているのかと帰ろうとしたら、ごんが「気配がする」と強行突破した。止めたのだけど、台所に飛び込んで行ったと思ったら「ぶん!」と焦った声が聞こえ、わたしも慌てて台所に駆け込んだ。
むっとした熱気に、床にうずくまっているぶんちゃんが居た。
何があったか、だいたい察することができたので、慌てながらも水分を摂らせて何とかリビングに移動させて、エアコンをつけて安静にさせる。
どうやら締め切った台所で料理をしていて熱中症になったらしい。
あの後、看病をごんに任せて薬局にアルカリ性飲料とか色々買いに行ったのだけど、帰ってきたらぶんちゃんの枕元でごんがクドクドお説教をしているのを見て、心底ぶんちゃんが気の毒になった。
体調が悪いときに言わなくても良いでしょう!
「大丈夫ですから、せめて返事をするまで待っていてくださいよ。」
ぶんちゃんは苦虫を潰したような顔をしてリビングから出てきた。
ごんはその横を通り過ぎて、ソファーに飛び乗り欠伸をして寝そべった。
「今日はエアコン点けているようじゃな。」
「流石に懲りました。」
苦笑いをしながらわたしを見る。
「なんぞ用だったか?」
わたしは首を振った。
「微妙な暑さだったからエアコン点けているか心配になっただけ。」
「枕元での説教は懲り懲りじゃ。」
「確かに。」
あ、そうだ。
「ちょっとだけごんを預かってくれる?薬局行きたいんだ。」
ごんはソファーで寛ぎながらリビングを見渡した。
文治郎が人界に戻ったときにはどうなるかと思ったが、それなりに馴染んでやっているようだ。はれの手助けもあってのことだが…ごんはつらつら思いながら、またウトウトしだした。
その時だった。
強烈な喪失感と焦燥感が体を走った。
慌てて原因を探すために気を探る。そして理由を突き止めた。
はれが消えた。
お読みいただきありがとうございました。




