お手伝い
お越しいただきありがとうございます。
「はれに何をさせるつもりですか。」
ゴンは目つきが鋭くなり、いつでも飛びかかれるような体制をとった。
あの、ごんさん。言葉づかいから察するに、多分上役に当たる人なんでしょう?その人に対してそんな態度って…でも、わたしを守るためなんだよね。ありがとう。
「何って、それをこれから」
「言っておきますが、お買い物〜とかランチ〜とかサウナー〜とかテーマパーク〜は却下です!」
「それ、あんたが行きたいところじゃない?」
「わたしは近々行く予定ですので。」
呆れたように言うお姉さんに、ごんは「どや!」とばかりに言い切る。
ん?ちょっと待って。
「今言ったところ、動物駄目なところもあるじゃん。」
特にテーマパークなんて。
ごんは私をちらりと見ると、急に跳び上がり一回転した。白い煙がポワンと立ち上り、煙が消えるとそこには5歳位の男の子が立っていた。
「この姿なら問題ないじゃろう?」
白髪のおかっぱ頭の子がニンマリ笑った。
「兄上、許可なく人化など‼」
「許可は降りた。案ずるな。」
許可?
「遊びに行く為に許可がおりたんじゃないわよ。」
お姉さんは不機嫌そうにいった。
「当たり前ではありませんか。獣体だと行ける場所が決まっていますからな。やはり情報を集めるためには人化しないと。」
「仕事と遊びは分けてほしいわね。」
「貴方ではあるまいし。ちゃんと仕事と私事は分けておりますよ。」
「…言ってくれるわね。」
お姉さんの顔筋に青筋が浮かんだのが見えたような気がしたのに、ごんは相変わらず、しれっとした態度を崩さない。
「大体、あんたは」
不毛な言い合いが始まった。
その横で、わたしは稲口さんをこっそりつついた。
「人化ってしてはいけないの?」
「人界では許可なしでは許されていない。」
口では返事を返してくれているが、目はごんに釘付けだ。
「元々、人化は力のある方々しかできない。しかも、人界では『気』が違うから余計に難しくなる。」
『ああ、兄上、お可愛らしい』とか聞こえた気がするけど、聞こえなかったふりをする。
「許可なしで人化したらどうなるの?」
「そのことが公になった、それ相当の罰を受けるし第一に人化を解いたあと、疲労感虚脱感が半端なものではない、と聞いておる。」
あの後数日間、ごんはとても大人しく寝てばかりいた。なれない環境に戸惑っているのだろうと思っていたのだけれど、本当は怠くて仕方がなかったんだ。
「そこまでして、人化をする意味ってあるの?」
「相手に対する威圧もあるが、術が使いやすくなるし、第一人に紛れることが容易くなる。何故そのよう事をきく?」
ごんを見詰めながら、素直に答えてくれたけど、急に気付いたらしい。
わたしは誤魔化すためにも、不毛な会話を続けている二人に声をかけた。
「あのー頼みたいことって何ですか?」
「そうそう、ぜひお願いしたいの。」
お姉さんは、グルンと勢い良くこちらを見た。
「あなたに、しばらくぶんちゃんの面倒を見てほしいの。」
稲口さんの?
「何を言い出すのです!ぶんは独り立ちしたのです!」
「いいですよ。」
「ありがとう、助かるわ。」
「はれ⁉」
ごんが何かぎゃーぎゃー言っているけど、それは無視する。
「勿論、給金は出すから。」
「あ、それはいりません。」
「あら、対価は受け取って欲しいわ。」
「多分、ゴン絡みでこれからも色々関わって来ると思うので、ここでお金が発生すると何処からどこまでが仕事かプライベートかが分からなくなるので。」
だから、お手伝い感覚でしていきたい。
お姉さんは少し意外そうな顔をしてから、にっこり笑った。
「じゃあ、これは借りにしておくわ。」
「はれ、断われ!首を突っ込むな!」
「いや、突っ込む気はないけど。」
ぎゃんぎゃん言ってくるごんがうるさい。ごんとそちらの世界首を突っ込む気は毛頭ない。でも。
「この状態の稲口さん放おっておけないでしょう。」
ごんはぐっと黙り込んだ。
このまま放置したら、川で水は汲んでこないにしても、火打ち石で火を点けて庭で煮炊しそうだし。タライに水を組んでお風呂代わりにしそうだし。
ごんが黙り込んだので、わたしは稲口さんに向き直り、にっこり笑いお手伝いとやらを始めることにした。
「まず初めに、明かりのスイッチ覚えましょうか。」
お読みいただきありがとうございました。




