一般常識とは?
お越しいただきありがとうございます。
「ごめんなさい、この辺井戸ってないと思うんですけど。」
災害用に井戸を保存している家もあるとは聞いているけど、我が家は近所付き合いがあまり密ではないから、どこの家がとかはわからない。
「何と!井戸がないと!?」
稲口さんの目が見開かれる。
ん?よく見ると稲口さんって、どこかで会ったことがあるような?声に聞き覚えがある。
「絶対に井戸水じゃないと駄目なんですか?」
水にこだわる人なのかな。茶道を嗜んでいる人がお茶を点てるときには井戸水を使う人もいる、って何かで読んだことがあったけど。
「いや、水は近くに川が流れていたからそこから調達するにして、先ず水瓶を用意せねばいかんな。近くに売っているところはあるか?」
「は?飲料水、川から調達する気なの!?」
この辺は都会ではない。川の水もある程度透き通っている。でも、飲めるかどうかは考えたこともない、ってか飲んじゃだめでしょう!
「井戸もない、川の水はだめ。ではお主はどのように水を得ているのだ? 売りに来るのか?」
「水を売りにって…え?水道通ってないの?」
「すいどう?」
初めて聞いた言葉なのか、キョトンとしている。
あー説明するのがめんどくさくなってきた。
「一緒に来て。」
わたしはリビングを出て、台所があるだろうと思われる場所につかつか向かった。
「おい、小娘。」
「は、はれ? 」
男二人も戸惑いながら着いてきているようだ。
リビングの扉を開くと廊下を挟んでまた扉があった。多分ここが台所だろうと開けてみる。
「うわーピッカピカ。」
台所はすべて新品のシステムキッチンだった。
IHクッキングヒーターいいな〜ウチ、お母さんがガスオーブンレンジ信仰者だから、絶対にしないんだろうな。
全部新品でピッカピカ!冷蔵庫も大きいのが付いているし、台所全部がリフオームされたみたい。床も壁もきれい!
おっと、目的忘れるところだった。
私は水道のレバーを上げた。
最近使っていなかったせいか、ゴボッと音がして最初は茶色っぽい水が出たけど、すぐに澄んだ水が蛇口から流れた。
「こ、小娘、そなた神業を使えるのか!?」
「そんなの使えるわけ無いでしょう!これは水道!簡単に説明すると、水の道を通してここで出るような仕組みになっているの!」
「そのまんまな説明じゃな。」
横でボソリとつぶやくごんを睨みつける。
稲口さんはレバーを上げ下げして「おお!」と喜んでいる。出したり止めたり、水もったいないけど、まあ、今日はゆるそう。
わたしが微笑ましく見ているのに気がついたのか、ちょっと照れたように咳払いをしてレバーカラ手を離した。
「水のことはわかった。して、竈はどこにあるのか?」
「……ごん、説明しなさい。」
わたしはコソコソ隠れようとしていたゴンを捕まえ、持ち上げた。
「あんた、一般常識は教えたって言っていたよね?」
「はれ、はれ、落ち着け!話を聞け!!」
私に雰囲気が怖いのか、ごんはなんとか逃れようと足をジタバタさせている。誰が逃がすか!
「教えておる!ちゃんと教えておる!」
「じゃあ、何で井戸水に竈なの。」
人間、怒ると結構低いこえが出るんだな。我が事ながら感心してしまう。
「人界と異界の時間の流れが違うせいじゃ!人界の流れは早いから、教えたものがすぐに古くなってしまうんじゃ。それと。」
「それと?」
言い訳があるなら一応聞いてやろう。
「わしらも使い方がわからんから、教えようがないんじゃ。」
私は無言のままごんを上下に降った。
開き直るな、こいつ!こんな状態の人間を野に放つつもりだったのか!
「小娘、じゃない。はれ殿、どうかその辺で。」
「稲口さんも怒っていいんですよ?」
何と言っても当事者だし。
稲口さんはわたしの手からそっとごんを受け取った。
「怒ることなど何もない。兄上は我のために色々手を尽くして下さった。感謝しかない。」
なんていい人なんだろう、爪の垢ください、ごんに飲ませます!
「でも、最近はかなり改善されてきたのよ?」
「改善されてこれって、え?」
後ろから知らない声がかけられた。
驚いて振り向いてみると、いつの間にきれいな30歳くらいのお姉さんがいた。
誰?
お読みいただきありがとうございました。




