小箱の中に
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誤摩化された感がなんかあったけど、わたしとごんはお隣の稲口さんの家に行った。
インターホンを鳴らしたけど返事がない。
「買い物でも行っているのかな?」
「あやつなど構うことないのじゃ。巣立った大人なのじゃぞ。」
「またそんなこと言って…いくらひとり立ちしたとは言っても」
ごんと話していると家の中からバタバタバタ足音が響き、凄い勢いで引き戸が乱暴に開けられた。
そこには、白い布を頭に巻いて、息を切らせた稲口さんがいた。
「兄上!小娘!!」
「何かありましたか?」
あまりの勢いについ聞いてしまう。
「変な音が鳴り響いたと思うたら、そこの小さな箱の中に兄上と小娘が!!あれは何なのだ!妖怪の類なのか⁉」
変な音?小さな箱に?ん?
稲口さんは確認するようにわたしの肩や腕を触ってきた。
「なにもおかしいところはないか?痛いところはないか?」
怖かっただろう、とわたしの頭を撫でてくる。本当に心配しているようだ。
この人、案外良い人なんだな。ちょっとほっこりした。
「貴様!はれに気やすく触るな!」
足元でごんがギャンギャン吠えている。
稲口さんはわたしから手を離すと、ごんを抱き上げた。
「兄上もご無事で‥!」
ごんをそのまま抱きしめ、すりすりと頬擦りをする
「やめんか!」
ごんは前足を突っ張らせて逃れようとしている。
さて、この隙に。
わたしはインターホンを押した。
ピンポーンと聞き慣れたチャイムの音が鳴り響く。
稲口さんはごんを抱きしめながら凄い勢いで振り返った。
「そなた、今何をした!これが何か知っているのか⁉︎」
「あーとりあえず、上がっていいですか?」
インターホンの受け方、教えておこう。
通された部屋は多分リビングルームなのかな?
畳敷きを想像していたのだけど、床はフローリングが敷き詰められていた。
二間続きで、隣の部屋には荷物らしいダンボールが重ねられている。。
これから片付けだもんね。早めにお暇しよう。
わたしは稲口さんの前に立ち、しっかり目を合わせた。稲口さん、少し引いたように一歩後ずさった。
「先程は、突然のことで驚いたにしてもわたしの態度は良くなかった。ごめんなさい。」
ペコリと頭を下げ、勢いでそのまま続ける。
「これ、差し入れのおにぎりです。よかったら後で食べてください。」
稲口さんは少し驚いたような顔をして
「いや、先程はわたしも悪かった。気が動転してつい…申し訳なかった。」
稲口さんは軽く頭を下げた。
「はれは良い子じゃのう。自分が悪くもないのにわざわざ出向くなど。それなのにぶんときたら、いい歳をして情けない。」
私と一緒に上がり込んだゴンがネチネチと嫌なことを言う。
まったく、もう。
「ごんも謝りに来たんでしょう。」
心配かけてごめんなさいって。それなのに。
「わし、謝ることなんてなにもないもん。」
ごんは顔をつーんとばかりに顔をそむけた。
なにが『もん』だ。可愛いじゃねえか!
「いいんだ。兄上に謝っていただくことなど何もない。」
稲口さんが苦笑交じりに言う。
結構良い人だな、やっぱり。ごんは後で叱っておこう。
「お隣なので、何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてください。」
ゴミステーションとか分別方法とか。結構面倒くさいんだよね。
「それは助かる!早々聞きたいことがあるのだが、良いだろうか?」
「はい、もちろんです。」
分かることだといいんだけど。
「お茶を入れたいのだが、井戸はどこにあるのだ?」
ん?井戸?
ごめん、わからない。
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