明るいうちにまっすぐ振り返らず帰れ
ホラー的な表現があります。苦手な方はお気をつけください。
神社を出ると辺りは薄暗くなっていた。
そんな時間だった?スマフォで時間を確認しようとしたら、横の提灯の灯りがフッと消えた。
電源切ったの?
あの神主、マジ感じ悪い!
イラッとしながら歩き出すと、すぐ前の提灯の灯りが消えた。
え?何これ。
振り返ってみると、そこには神社は無かった。
違う、あるのかもしれない。でも闇で見えなかった。
そんな見えなくなるくらい歩いていないのに‥何の音も聞こえてこない暗闇に言いようのない不気味さと恐怖を感じた。
慌てて大通りに戻ろうと足を進める。歩みはできるだけ早く。
歩いているはずが、いつの間にか小走りに。そして全速力に近いものになっていった。
通り過ぎた横から、灯籠が消えていく。
分からないけど、どこかでわかっていた。
ナニかに見られている。
アレに追い付かれては、捕まってはいけない。
闇が追ってくる。
見えない手を伸ばして、獲物を手に入れようとしている。
『明るいうちにまっすぐ振り返らず帰れ』
さっきの神主の言葉を思い出す。
最後の灯篭が消える前になんとか走りきる。
入ってきた通りが見える。
向こうは明るい日常。
飛び込むように走り出た。
しばらくそのまま走った。
止まれなかった。
明るい日の下に戻ったのに、さっきの闇が追いかけて来ているようで、捕まって何処かに連れていかれそうな気がして。
息も足も限界になって立ち止まった先に自販機が見えた。
なんとか近づいて水を買い、一気にあおった。焦っていたせいか、気管に入り込んでむせる。
苦しくてその場にしゃがみ込んで咳きこんだ。でも、この苦しさがさっきの恐怖から現実に戻してくれているような気がする。
少し落ち着いてきて大きくて息を吐いた。
帰ろう。コンビニはまた今度でいい。さっきの神主の言葉に従うわけじゃないけど、明るいうちにまっすぐ帰ろう。
飲みきれなかったペットボトルの蓋を閉めた。
さて、と。
「キャウ!」
足元にフワフワした何かがあたった。
え、何?
恐る恐る下を見ると、白いフワフワしたものが足にすり寄っていた。
白いモフモフ‥
「犬?」
「キュン!」
体の大きさは子犬。それがいつのまにか足にスリスリしていた。
何かちょうだい!みたいな感じだけど、特に何も持っていない。
「きゅーん」
そんなくりくりした目でおねだりされてもなあ‥あ。
ペットボトルの蓋を開けて、手をコップがわりに注ぎ差し出した。モフモフは匂いを嗅いでから水をペロペロなめ出した。
生後どのくらいなんだろう。人馴れしているから飼い犬かな。毛並みも綺麗だし。
そんなことを思っていたら、飲み終わったらしく、満足そうに尻尾をパタパタ揺らしていた。
体にしては尻尾長いな。
「もういいの?」
「あん!」
残った水で手をすすぎ、空になったペットボトルをゴミ箱に捨てて立ち上がった。
辺りを見回してみても、飼い主らしい人どころか人っ子一人いない。
さて、どうしよう。
モフモフは私の足にスリスリしている。
うっっ、かわいい!かわいいけど、でも。
もう一度しゃがんで、モフモフの耳の後ろ辺りを掻いてやる。
「ごめんね。うちには連れて行けないんだ。」
次の子を飼うにはまだ気持ちが切り替えられない。
耳を掻いていた手をそっと離す。
「飼い主さんが迎えにくるまで、ここで大人しく待ってるんだよ?バイバイ。」
立ち上がって、家に向かって歩き出した。
お読みいただきありがとうございました。