あやつは人の子じゃ
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稲口さんが帰ってから、急に静かになった。
リビングルームに移動して、ごんにおやつと水をあげた。
おやつのボーロが3粒だけなのを見て、情けない顔をしていたけど無視する。
これ以上、太らせないようにしないと!これは飼い主としての責任!
わたしも冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出し、コップに注いで一気に飲み干した。
思っていたより喉が渇いていたみたい。
もう一杯飲もうと、コップにそそいでいたら稲口さんにお茶も出さなかったことに今更気がついた。
トラック、行ったばかりだったよね。疲れていなかったかな。
ちらりとかすめた罪悪感を、頭を軽く降って追い出す。
いやいや、あの態度は無いでしょう。人の家にいきなり飛び込んでくるわ、終始上から目線だったし。
うんうん、と首を振って自分を納得させる。
でもーごんに会えてすごく嬉しそうだったな…急にごんがいなくなってすごく心配して探したんだろうな。
もし、わたしも同じ立場だったら。
胸が少しざわついた。
時計を見るとお昼少し前の時間だった。
冷凍庫に入れていたラップにくるまったご飯を2個取り出してレンチンする。
具材はーツナマヨと鮭フレークがある。この組み合わせは、わたしの中で最強コンビ。
熱さを我慢しておにぎりを2つ握り、ストックされていたお湯を注ぐだけのカップ味噌汁を取り出す。
お昼ごはん、準備していたらおやつに食べてもらおう。
おにぎりをラップにくるんで味噌汁と一緒の袋に入れる。そしてリビングに向かった。
リビングではごんがお気に入りのクッションの上でウトウトしていた。
「ねえごん。」
「ん〜?」
ごんは眠いのか面倒くさそうに返事をしてきた。
「稲口さんに謝りに行こうよ。」
「なんで!!」
ごんはすっごい勢いで跳ね起きたが「あ、急に起きたから目眩が…」とクッションにまたぐったり横たわった。
考えてみればごんって結構年いってるんじゃない?お狐様だって言っていたし、弟を名乗る稲口さんは20代くらいだったし。
食事とかおやつとかもう少し見直そう。
「なんでって、わたしたちも態度も悪かったし。お隣さんと気まずいのも嫌じゃん。」
「謝るのはあいつのほうじゃ!なんじゃ、あの態度は!!」
思い出したのかごんはまたぷんぷん怒り出した。
まあ、確かに。良い態度ではなかった。
「あの態度はまあ、うん。でもごん、黙って出てきたんでしょう?」
ごんは少しばつの悪そうな顔をした。
ああ、やっぱり何も言わないでウチに住みだしたんだ。
「稲口さん、きっと心配したと思うよ?急に家族がいなくなるなんて。」
「いいんじゃ!」
ごんはフンッとばかりに横を向いた。
「あやつは巣立ちの時期だったんじゃ!もう二度と会うことがないはずだったんじゃ!!」
ん?何で巣立つと二度と会えないんだ?
「それなのにあやつは!」
「あの〜ごんさん質問。」
「何じゃ!」
手を上げたわたしをごんがぎっと睨みつけてきた。
目つきすごいキツイけど!こ、怖くないし!うちのごんはお狐さまなんかじゃなくて犬だし!
「何で会うことができないの?巣立ちって独立のことでしょう?」
昔の丁稚奉公もお盆とお正月は休みがあったって聞いたことがある。
稲口さん、ごんの弟っていうならお狐様でしょう?つまり、同じ職種じゃないの?
ごんはわたしを睨みつけるように見つめ、軽くため息をついた。
「あやつは狐ではない。人の子じゃ。」
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