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お狸様では?

お越しいただきありがとうございます。


 安心したら、喉が渇いているのに気がついた。


 そういえば、お散歩帰ってきてから何も口にしていないや。


「ごん、お腹空いてない?おやつあげてなかったね。」


「おやつ!」


 ごんの目がキラキラ輝いた。

 わたしは、抱っこしていたごんを畳の上に降ろした。

 ごんはパタパタと尻尾を振って


「わし、リンゴと桃のボーロがいい!」


 わたしは「よっこいしょ」と立ち上がった。


「2つとも甘いじゃん。1つは野菜のボーロにしたら?」


「ちょっと待て!おかしいだろう⁉」


 部屋から出ようとしたら、焦ったように呼び止められた。

 


 あ、稲口さんまだ居たんだった。すっかり忘れていた。

 それにしても。


「『おかしい』とは?」


 マジ、意味わかんない。


「ここは『わたしをずっと騙していたにね』とか、『もう顔も見たくない』とか!『お狐さまなんてうちには置けない』とか言うはずだろう!」


「何で貴方の希望にそわなくちゃいけないんですか…」


 微妙に真似されているところもなんかムカつく。


「うちのごんは、お狐さまじゃなくて普通の犬として保護したんです。だから犬なんです!それに…どっちかというと」


 足元のごんを抱き上げてじっと見る。


「お狐さまというより、子狸様では?」


「は?」

「ん?」


 白いもふもふ毛皮は変わらないけど、子犬から成犬になったからと言い訳はできるだろうけど。


「はれ、酷い!」

腕の中にごんがぎゃんぎゃん騒ぐ。


「いや、確実に重くなってるよね?」


 夏毛に変わっているはずなのに、見た目変わっていないし。それどころかお腹ぽっこり出ていない?


「一般的に狐って、シュッとしたスマートなイメージがあるんだけど、ごんはコロってしてるよね?」


「小娘!おぬし、無礼もいい加減にしろ!」 


 我慢しきれなくなったのか、稲口さん座卓を前に押して、足早に近づいてきた。

  

 すごいな、この人。あんな長時間正座していたのに足痺れてないんだ。


「兄上のどこが狸なのだ!」


「えー、このお腹とか。」


 絶対、出てるよね?

 

 稲口さんも覗き込むと「あー」という顔をした。

 ほら、否定できないじゃん。


「あと、顔の皮の伸び方とか。」

「顔の皮の伸び方?」


 稲口さんはゴンの顔に手を伸ばし、皮を左右にびよーんと何回か引っ張った。


「ね?」

「確かに…」


「何なんじゃ、お主等!」


 あ、ごんがキレた。


「ぶん!お主とっとと帰れ!荷物の片付けとかやることはようけあるじゃろう!」


 わたしの腕からピョンと飛び降り、稲口さんの足元をグイグイ押していった。


「ちょ、ちょっと兄上!」

「ごん、危ないって。」


 ごんは貸す耳持たぬとばかりに玄関まで稲口さんを押していき、どうやってか玄関をガラリと開け、稲口さんを表に追いやり、揃えてあった靴をポイッと放り投げた。


「お前は巣立った身じゃ。いつまでも纏わりつくでない!」


 そして扉をばん!と締めてしまった。


「ごん、何もそこまでしなくても。」

「これくらいで凹む輩ではないわ。」


「兄上!後からまた来ますからね!!」

 玄関越しに声が聞こえてくる。

 扉を開けようとしたらごんに止められた。

「来るな!」

「兄上に会いに来るのではありません!お隣への引っ越しの挨拶来るのです!!」


 今どき義理堅い人だな。

お読みいただきありがとうございます。

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