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わしの名は

お越しいただきありがとうございます。


「今まで言わなかったのは、別段言う必要がないと判断したからじゃ。」


 静かにごんが話す。


「その事で気分を害したのなら申し訳ない。」


 座卓の上に座ったままペコリとごんが頭を下げる。


「兄上が頭を下げる事などございません!この小娘が気づかないのが愚かなのです!」

「黙れ、ぶん。口を出すな。」


 いつも聞いているごんの声は、仔犬のせいか少し高く、声変わり前の男の子のように柔らかさを含んでいる。

 その可愛らしい声でジジくさい言葉遣いのギャップは中々面白かった。

 

 でも、今話しているごんの声は、静かに流れるようで透明感が感じられるようで、心に染みる声ってこういう声なのかって思えた。



 ああ、これが神の御使いの声なんだ。

 

 変に納得してしまう自分がいて、今まで不思議に思っていたことが全て納得してしまったような気がした。

 


 ごんはこれからどうしたいんだろう。わたしはこれからどうすればいいんだろう。


 

  最善はどこにあるんだろう。



 何をどうしたら良いのか分からないままごんを見ると、目があった。


 いつものように両手を広げ「おいで」というと、ごんは机から飛び降り私の前までゆっくりと歩いてきて、わたしの前で座った。


 いつもなら走って膝の上に乗るのに。


「小娘!兄上を呼びつけるとは不届き千万!!お前が動かぬか!!」


「うるさい。だまっておれ。」


「お狐様なの?」

 

 稲口さんはぎゃんぎゃんなにか言っていたけど、相手にする気になれずスルーする。


 ごんはコクリと頷いた。


 金色の目と視線が合う。何時もは強さを感じる目が、どこか悲しそうに見えるのはわたしの希望なのかな。


 わたしが悩んでいるぶん、ごんも同じ気持ちでいて欲しい、みたいな。


「『白の君』っていうんだ?」

「それは通り名じゃ。真の名ではない。」


 動かずにいるごんに手を伸ばして抱き上げ、膝に乗せる。


「真の名って?」


 ごんは教えてくれるのかな?それとも…

 

 ごんはちょっと考えるような仕草をしたあと、わたしの胸くらいに飛びつき、私の口元をペロリと舐めた。



「今のわしの名前は『ごん』じゃ。お前がつけたんじゃろう?」



 どこかで聞いたことがあるセリフだった。一度、言われたことがあるってすぐ気づいた。



 迷いなんかそれで吹っ飛んだ。

 『最善』なんてどうでも良くなって… だから返した。あのときと同じ言葉を。


「わたしがつけたんじゃない。」


 ゴンが目を丸くして笑った。私も笑ってゴンを抱きしめた。


お読みいただきありがとうございました。

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