あんた、まさか、犬として飼われてるんですか⁉
男は座卓にバン!と手をつき立ち上がろうとしたらしいが、スペースの関係で立ち上がることが出来ずまた座った。
うわ〜人んちの座卓叩くなんてどんなんよ。ひくわ〜
イラッときて目の前の男を軽く睨む。
「いちゃいちゃ?どこを見ているんですか。これは大事な家族のコミニケーションです!」
「は?家族?」
男はポカーンと驚いたような顔をした。
「兄上、あんた娶ったのですか⁉」
娶った?は⁉誰が誰を?
「娶った…うん契っているし、役所にも届け出だしたし。」
「ちょっと待ってゴン、誰が誰と?」
なんか今、ちょっと生々しい言葉が聞こえた。
ゴンはわたしに向き直るとにっこり笑った。
「わしとはれが!」
「そんな、わぷ!」
続けようとした言葉は、ゴンがわたしの口元を舐めたせいで続けられなかった。
「ほら、契った!」
どや、と胸を張るごん。
これが?おくちペロペロが契り?
「も〜ごんったら、おマセさん。」
あーかわいい。誰が何と言ってもうちの子かわいい。天使がここにいる!
「お前!兄上を穢したな!!何と破廉恥な!」
ホッコリしているとうるさい外野がまた騒ぎ出した。立上がろうとしたけど、さっきと同じく立てなかったみたい。
学習しようよ。
「穢したって…見ていました?おくちペロペロしてきたのはごんですよ?」
「ペロペロなど破廉恥なことを言うな!この小娘が!」
だめだこの人。会話にならない。どうしよう。
「ブン、お主いい加減にしろよ。」
膝の上に抱っこしていたごんが、今まで聞いたこともないような低いドスを含んだような声を出した。
『ブン』と呼ばれた男は傍目にもわかるくらい、ビクッと体を震わせた。
「…稲口文治郎と申します。」
あの後、ごんに説教をくらい、男ー稲口さんは頭を下げ、やっと名乗った。
「…小里はれです」
「小里ごんじゃ。」
ごんもご機嫌に名前を告げた。
「兄上 、嫁を娶ったのではなく、婿入りしたということですか?」
は?婿入り?
「あの、さっきから訳のわからないこと言っていませんか?」
娶るとか契るとか婿入りとか。
「ごんは役所に飼い犬の登録をして家族になったんですけど?」
何で犬と結婚出来ると思っているんだ、この人ーああ、稲口さんか。
わたしの言葉を聞いた稲口さんは、ぽかーんと口を開けてしばらく無言だった。それから段々顔が赤くなってきた。
犬と人間が結婚できないことを今更思い出したのかな?
「あんた、まさか、犬として飼われてるんですか⁉」




