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危機管理能力

 日が暮れかかった道をごんと家に向かう。


 どうも雨は局地的なものだったらしくて、路地を出ると地面は全く濡れていなかった。


「親切なお姉さんだったね。」

 ごんは振り向きもせず、スタスタ歩いている。

 

 お店でお茶をいただいている時、わたしは瞬間的に寝てしまったらしく、ごんに顔をなめられて目を覚ました。

 

 失礼なことをしてしまった、と慌てるわたしに


「ほんの一寸の間だったわよ。」

 お姉さんは笑って新しいお茶を出してくれた。


 再度謝るわたしに

「今日は蒸し暑かったから疲れちゃったのね。」


 いい人だったな。おまけに綺麗な人だったし。


 なのに、帰り道のごんはどこか機嫌が悪いみたい。

 話しかけても返事しないし、スタスタわたしの先を歩いている。


「疲れたの?」

「‥」

「お礼にごんの為に買ったおやつをあげたこと、怒っているの?」

「‥」

「お金受けとってくれなかったし、他にお礼になるようなものなかったし」

 

 ごんは急に立ち止まり、こちらを振り返った。

 あ、やっぱりおやつあげたことを怒っていたのか。


「お姉さんの家にもいるって言ってたし、ごんには」

「はれ!」

 また買ったあげるから、と続けようとしたら、思いっきり睨まれた。

 あーなんか、めちゃくちゃ怒ってる?なんで?


「お前には、危機管理能力が無いのか!」

「は?」


 子犬に危機管理能力を問われるってなんぞ?


「今日のどこに危機があったよ。」

「お前、散歩の行動を思い出してみろ!」


 散歩の行動?えーっと。

「リードが重いからペットショップ寄って、ごんにおやつあげて、雨降ったからお姉さんのところで雨宿りさせてもらって、で今。」

「‥お主、所々記憶が抜けてはおらんか?」


 呆れたように言われた。

「抜けて無いでしょ。そのものじゃん。」

「気がついてもおらんとは‥こんなにたわけで愚鈍だったとは。」

「おい、誰がたわけで愚鈍だ。」

 

 確かに、抜けてるとか天然とか言われることはある。それでも飼い犬にここまで言われる筋合いはないぞ。

「よいか、お主」


「あら、ゲンちゃんのお姉ちゃん。」


 通りの向かい側から声を掛けられ、そちらを向くと白い体に茶色いぶちの入った小型犬を連れている女性だった。

 その人は通りを渡ってこちらまでやってきた。

 

 見知った顔にわたしは頭を下げて挨拶をした。


「ももちゃんママ、お久しぶりです。」

「久しぶりね。」

「ももちゃんも久しぶり。」

 足元にいる小型犬ーももちゃんも短い尻尾を千切れんばかりに降っている。

 

 ももちゃんはゲンの犬友だった。

 体は大きいのに割とビビリだったゲンと体は小さいけどパワフルなももちゃんとの触れ合いは中々面白いものだった。

 

「新しい子、お迎えしたの?」

 わたしがごんを連れているのに気がついていたようだ。


「お迎えというか、保護して飼い主も見つからなかったのでそのまま飼うことになりました。」

「ゲンちゃんの時もお母さんそんな事言っていたわね。」

 おばさん、あーって顔をして苦笑いを浮かべた。

 わたしも一緒に苦笑いする。


 人間同士の会話を尻目に、ももちゃんがトコトコとごんに近づいていった。

 ごんもももちゃんに興味を持ったのか、お互いに口元の匂いを嗅ぎ合っていた、が。


「#@*%!」

 ごんは驚いたかのようにももちゃんとの距離を取ろうとした。

「?」

 対するももちゃんは何を思ったのか、やたらとクンクンごんに近づいて匂いを嗅いでいる。


「もも?」

 あまりのしつこさ、というか興味の持ち方にももちゃんママが不思議そうに声を掛けた。

 ももちゃん、匂いを嗅ぐのが好きな方だって前聞いたことがあったけど、コレは嗅ぎすぎでは?

 

「もも、ごんちゃんひいちゃってるよ。ごめんね、もう行くわね。」

「あ、はい。じゃあ、また。」


 ももちゃんたちを見送って、帰ろうかとごんをみると何故かガタガタ震えていた。


「ごん!どうしたの⁉︎」

 抱き上げると、しがみつかんばかりの勢いで胸元に身を押し付けてきた。


 え?なに?何があった⁉︎


「大丈夫⁉︎病院に行こう!」

「いや、そこは行かんでいい!じゃのうて‼︎」

 この前病院に連れて行って注射を打たれたのがショックだったらしい。頭をフルフル振っている。


「はれ、さっきの御仁は何者じゃ。」

 ごんはまだ震えが治らないようだった。

「さっきの御仁?ももちゃん?ももちゃんママ?」

「犬、もも殿じゃ!」

「殿」って‥なんなんだ。

「ももちゃん?可愛いよね。もう結構おばあちゃんなのにいつも元気で懐っこいし。」


「違う、そういうことではない!」


 なんか思いっきしキレられた。


「そうではない、ってじゃあなんと言えば?」

「じゃから!特徴とか!性質とか!」


 ごん、何故か涙目になってる。

「あの目つき!気配!身のこなし‼︎只者ではあるまい‼︎」

「あのさー警察犬とか忍犬じゃあるまいし。普通に可愛いじゃん。」

「可愛い⁉︎わしの方が可愛いじゃろ‼︎」

 そこは突っ込むんだ。


「えっとね〜ももちゃんママが言っていたけど、小型犬だけど運動量は大型犬並みなんだって。後は〜」


 ももママ、なんか面白いこと言っていたな。


「庭に穴を掘るから獣医さんに相談したら、本能なんで諦めてくださいって言われたって。」


「本能、とは。」


「狩猟犬なんだって。あんなに小さくて可愛いのに。種類はね〜」

 

人の名前みたいな種類だった。そうだ、思い出した。


「ジャックラッセルテリア、狐狩りの犬らしいよ。」


「き、きつねがり‥」

 

 ごんは腕の中でグッタリしてしまった。


「ちょっと、ごん!どうしたの⁉︎」

 

 これは病院に連れて行こう!焦るわたしの耳にはごんの独り言が聞こえなかった。


「わし、お外出るのやめる‥」



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