苦いお茶
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さっきまで雲ひとつない、いい天気だったのに‥現に今も青空がみえている。
降り始めだから急げば大丈夫だろう。
「このくらい、」
大丈夫、といいかかけると急に大粒の雨がぼたぼた降ってきて、あっという間に先が見えないほどの土砂降りになった。
え?なんなの、ゲリラ豪雨?ほんのさっきまで晴れていたのに。
「雨宿りしていきなさい。」
お姉さんはにっこり笑った。
中に通されると4人が座れるテーブル席が縦に二つ並んでいて、右側には畳が敷いてあって、いわゆる「座敷席」になっていた。
「どうぞ座って?」
「あの、犬もよかったんですか?」
つい、ごんを抱いたまま入ってしまった。
お姉さんはにっこり笑って
「大丈夫よ。ウチにもいるの。」
よかった。飲食店に動物を連れ込むなんて申し訳ないと思っていたんだ。
促されるまま、ごんを抱いてテーブル席に腰を下ろす。
「可愛いわね。まだ小さいわよね?」
お姉さんがお茶を出してくれた。
「多分、四ヶ月くらいだと思います。」
「多分、なの?」
「先月拾った子なんです。」
話しながら出してくれたお茶に口をつけた。
なんというか‥変わった味のお茶だ。苦味が強い気がする。
「あら?苦手な味だった?」
苦味に少し眉を顰めたのが分かられたのかな?慌てて否定する。
「いえ、思ったよりも濃い味だったので。」
「ウチで調合しているお茶なの。体に悪いものを追い出す効果もあるの。」
抱っこしているごんもお茶の匂いをクンクン嗅いでいたけど、興味がなかったのか、くわ〜とあくびをした。
「少しクセがあるけど、そこがいいってハマる人もいるのよ。」
そう言われると‥もう一口飲んでみる。さっきよりはあまり苦く感じないような気がする。舌が慣れたのかな?
お姉さんも向かい側にお茶を置いて「よいしょ」と座った。
「雨、止みませんね。」
格子戸の磨りガラスからでも、激しく雨が降っているのがわかる。
「そうね。そろそろ梅雨入りかもね。」
そこからたわいも無い話をしていたのだけど、温かいお茶とゆっくり流れるような時間、そして音楽のように屋根を叩く雨音のせいか、急に眠気が襲ってきた。
寝てはいけない、寝るな。わかっているのに‥あっさりと睡魔に負けてしまった。
「眠っちゃった?疲れたのね。」
ごんを抱いたまま眠ってしまったわたしにお姉さんは微笑んだ。
「可愛らしい子ね。ああ、あなたのその姿もカワイイわよ。ねえ、『白の』」
眠ってしまったわたしは、その後のお姉さんとごんのやりとりを知る術もなかった。
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