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ごん?

暴力的表現とホラー的な表現があります。

 しばらく経っても何も起きないので恐る恐る顔を上げてみると、風の渦の中に居た。


「なに、これ‥」

 竜巻の中にいるの?

 でも、この渦、移動もしないし埃やゴミも巻き上げない。


「触るなよ。腕がもげるぞ。」

 

 自分の腕の中から小さな男の子の声がした。

 腕の中を見てみると、さっきまで閉じていた金色の目がじっとこちらを見ていた。

「ゴン?」

 犬が返事をするわけないって分かっているけど、返事がないのが当たり前なんだけど、つい。

 ゴンは腕の中から飛び出し、ついでとばかりにくるんと一回転した。

 

 地面に降り立ったのは白い狩衣を着た5歳くらいの男の子だった。

 真っ白な肩くらいで切り揃えられた髪。金色の瞳は暖かいモノではなく、身に纏う雰囲気はきりりとした冬の日の朝のようで‥


 なに?なに?どうゆう事?

 目の前で起こっている事がよくわからない。

 犬って一回転できると人になれるの?え?一回転って出来るの?げんさんはした事なかったよ?え?犬って喋れったの?うちの子天才ってやつ?動画撮って載せたら「スゴイね!」いっぱいもらえる?


「治めてくる。そこを動くな。」

 男の子が目を向けた方向をつられてみると、見たこともないものが、いた。


 綺麗に整えられていた髪は振り乱れて、爪は長く鋭く刃物のように尖り、目は爛々と輝いてわたしを睨みつけている。

 まるで獲物を見つけた餓えた獣のように。


 ぞくりと寒気を感じて自分の体を抱きしめる。


 「餓えた獣」なんて表現は当たり前のようによく知っている。でも、言葉として知っているのと実際にぶち当たるのはこんなに違うなんて今更のように思い知らされる。

 それもその「獲物」が自分なんて‥ぬくぬくと育ってきたわたしには無縁のことだった。


 急に吐き気を感じて片手で口元を覆う。


 怖い。本能で自分は「あれ」に勝てないことを知っている。「あれ」に捕まったらわたしはわたしでなくなる事が何故か知っている。

 捕まったら、いたぶられて、切り裂かれて、絶望も感じられなくなって何もなくなった頃に、喰われる。


「立てないのならそこに転がっておれ。見て居られなんだら目を覆っておけばいい。」


 男の子がお見通しだとばかり、振り向かずに魅力的な言葉を投付けてくる。

そう、彼は強い。きっと「あれ」に勝つ事ができる。

 

 目を塞いで転がっている、なんて魅力的で優しい言葉。でもー


 震える足を叩きながら何とか立ち上がる。何かあった時に邪魔になりそうな荷物は地面に置いて、何かあった時にすぐ対応できるように身構えた。


 わたしをチラリと見た男の子はちょっと意外そうな顔をしたように見えた。


 男の子が一歩進むと、風の渦がそれに合わせるように消えていった。

 

お読みいただきありがとうございました。

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