完結
恋人もどき(4)での続き、喫茶店での二人は。
香はあの日の夜のことをゆっくりと語り始めた。裕子が自分の前からいなくなってしまうこと、旅行に行きたくなくなったこと、そしてあいつが突然、香の前からいなくなるといったこと。あとのことはよく覚えてないこと、気付いたらあいつが家に来ていたこと。それから、何か気まずくて距離を置いていること、向こうも何も言ってこないことなどをひとつひとつ思い出すように語った。香が話している間、裕子は一言も口を挟まず、たまに相槌を打つ程度で、両肘をテーブルについてじっと香を見つめていた。香は時々目を宙に泳がせながら話し続けた。いつの間にか横によけた抹茶オレの氷は溶けていて、あの無遠慮な客はいなくなっていた。音楽は、ショパンではなくドビュッシーに替わっていた。
一通り話し終えた香りは、溶けた氷で薄くなった抹茶オレに口をつけ不思議そうな顔をして、
「これなんか、いつもと違う。」とグラスを持ち上げて底から見上げた。そこで裕子も初めて笑ってストローに口をつけ、
「ほんとだ。」
と笑った。
薄まった抹茶オレを飲み干して、喫茶店を後にした二人の前にはほどよい雲の拡がる夕映えが美しく二人を照らしていた。
完
だらだらとただ、書き連ねただけになってしまいました。ただ、宗二と香については今後も別のかたちで書き続けていきたいと思っています。そして裕子やほかの仲間のことも。今回はいったん締めたいと思います。ありがとうございました。