「死への光」 in 雨
雨が降っている。今はまだ6時なのに外はほぼ真っ暗だ。まだ冬だから、といっても暗すぎる。これだから雨は嫌なんだ。
「ちくしょう、やまないかな」
僕は窓の前で呟いた。雨には嫌な思い出があるからだ。
「これだから雨は……」
それは数年前のことだった。学校からの帰り道、突然雨が降ってきた。
「勝也、傘持ってないか?」
「持ってない、先に帰ってくれ。急いでるんだろ?」
「勝也はどうするんだ?」
「しばらく雨宿りしてるよ」
と言うわけで、僕は先に帰った。今日は宿題をやっていなくて明日には提出しなければならないから急いでいたんだ。
「やっべ、降り方が激しくなってきたな」
いくら急いでいてもこれは限界を超している。僕の家までは20分はかかる。
「今帰ったら、超ずぶ濡れだな」
雨宿りをしようとするがなかなか良い場所がない。しばらく走ってやっと見つけた。
「あった!」
すぐにそこに駆け込んだ。
しばらくすると雨が弱まってきたので、また帰り始めた。
家まであと半分ぐらいの場所だった。何か、ポーッと光っているところがあった。路地の方なのだが、気になって仕方がなかった。
普段は絶対に使わない道なのだが、今日は入ってみた。
「ギャァァァァ!」
突然叫び声が上がった。路地の向こう側だ。すぐに僕は逃げ出してしまった。
路地を出て、しばらく止まっていると勝也が来た。
「よう、伸一。何してんの?」
「勝也、この道の向こうから叫び声がして……」
勝也はすぐに歩き出した。
「おい、勝也。何で?」
「人が叫んだのには訳があるだろう!」
勝也にそう言われ、あとをついていった。
路地を抜けるとそこには人が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
勝也が話しかけるが返事など無かった。そのわけは容易に分かる。かなりの出血だ。服が真っ赤に染まっている。
そのとき突然周りが光り始めた。あの光だ。
「勝也、逃げるぞ!」
直感的にこれはヤバイと感じた。
「何で?この人放っておくのか?」
「いいから来い!」
光がいっそう強くなった。
勝也の後ろに人影が……。
「勝也!」
一瞬の出来事だった。勝也の後ろに立っていた男が勝也に刃物を振り下ろした。
「うわあああ!」
勝也が前に倒れ込む。勝也の背中は真っ赤になっていた。
その男はこちらに向かってきた。返り血を浴びた口元がニヤリと笑った。
光で周りが見えにくいほどになった。
男が刃物を振り上げた。一瞬目の前が黒く染まった。
「来るなぁ!」
元来た方向に走り出していた。光がわずかに弱くなった。
かなり走った。もう男は追ってきていないようだ。
「勝也……」
また走り出した。一番近い交番までだ。
そこまで警官を連れて行った時にはもう遅かった。
雨はもうやんでいた。
それからも何度かその光は見たが、とても近づく気にはなれなかった。
その光は決まって雨の日に出ていた。
「雨やっとやんだな」
雨がやんだのを確認し、庭にある倉庫に向かった。前に見つけた興味深い本を読みたかったからだ。
その本の表紙はこうだった。
「死への光」
作者は書いていない。小説かと思ったがどちらかと言うと詩集のようだった。しばらく読んで最後の詩を読み始めた。
「 死への光
死への光は天国へ通ずる
死への光は雨の日に現れる
死への光は蛍のように光る
それは天国の扉
近づいて開けたとき天国へ昇る
見ても近寄るな 」
短い詩だったが内容が興味深い。これは明らかにあの光のことだ。
そして最後の行のあとに何かが書いてある。
「光を……見ても……絶対に……近寄るな……?」
詩の続きかと思ったが、明らかに筆跡も文字の濃さも違う。
それを持って家の中に戻った。
僕は2階に上がって自分の部屋にいた。
下で何か物音がした気がした。そして1階に下りると、突然光り始めた。周りがかなり光っている。
「ヤバッ。逃げなきゃ!」
しかし周りが全て光っていてどっちに逃げたらいいのか分からない。
「そうか!」
これは家から出ろ!ということだ。前も直感を頼りに逃げ切れた。今度もきっと切り抜けられる。
ドアの前に着いたときドアが開いた。
そこには男が立っていた。
「誰だ?アンタ?」
その男は何も言わない。次の瞬間、
「死ね!」
刃物を振り下ろしてきた。
肩にかすった。だけなのに血が吹き出てきた。この嫌な雰囲気何処かで……、この男も見たことがあるような気がする。
……あの男だ。勝也を殺したあの男。
もう一度切りつけられた。今度は胸を切られた。意識が遠のいていく。
……男が笑った。ニヤリと。あのときと同じだ。
光が扉のように見えてきた。勝也も同じように死んでいったのか?
あの日と同じに目の前が真っ黒に染まった。しかし今度は一瞬ではなかった。
雨はもうやんだのに……。