29話 ダンジョンの穴
6階層
ダンジョンには「穴」と呼ばれる空間がある。
原理はよく知らないし誰も、一部の暇人以外、興味もないのでざっくりと解説するが
「なぜかよくわからないけどモンスターが近寄らない空間」
である。
ギルドはこのんでそういった場所の情報を集め公開するし、冒険者はそこで前線基地の設営や休憩場所、宿泊場所を作る。
今回のメンバー達は地下6階層の中にある空が見える、仕組みは謎だが本当に空が見える、大きな空間で前線基地を組むこととなった。
「もう夕方か」
Nは空というべきか天井というべきかよくわからないが赤く染まった上のほうを見上げてそんなことを言った。
今回の討伐作戦は単純で、6階層で前線基地を作りそこから精鋭部隊による斥候を出す。
そして数で押し切れると判断した場合、いったん撤退し前線基地のメンバーにより討伐を行うというもの。
個人、ないしは個別のパーティーによる撃破は狙っていない。できるのであればジャンヌファミリーはあぁなっていない。
「ここは朝でも昼でもこういう夕方の空だよ。にいちゃん」
炊き出しで汁を作っていた男はそう言って大きなボールに入った具だくさんの汁をよこした。
何が入ってるかよくわからないがとりあえずまずくないからいいだろう、という冒険者の料理。
「ありがとうございます」
Nはそれを受け取り列から離れる。
前線基地の設営はできたし各々の寝床も確保できた、となれば次は飯である。
後方支援班、要は料理ができる冒険者、が主導し飯炊き。
彼らも最低限自分の身を守るくらいのことは求められるが、その分戦闘などの負担は少ない
味は、まぁこういう場所なのだ。あったかいものが食べられるだけまし。
「Nさん。さっきはありがとうございました」
列から離れて座り込む場所を探していNにピーターは声をかける。
「どんな時も後ろは気を付けないといけませんよ」
「小鬼共はそこをすり抜けてくるから怖いんだ。よかったら、こっち来いよ」
ピーターと一緒に飯を食べていた男がNを呼び寄せる。
「あんただろ。酒場で5人叩きのめしたって奴。うわさは聞いてるよ」
「5人も叩きのめしてないし、二人でやったことですが」
「うわさなんてそんなもんだ」
座れよ。っと誰かの背嚢を指さす。
個人が携行する荷物を詰めておくもので、頑丈に作ってあるので人が座るくらいは問題ない。
「おれは西のキャッスルだ」
「Nです。どこかに所属してるわけではありません」
キャッスルと名乗った男はそういって握手を求める。
ごつごつしたてに真っ黒な煤。
「あ、すまんな」
「銃砲隊ですか」
後ろに転がしてある銃、火打石を使った単発式のライフルだ、を見てNはそう見る。
「そうさ。あんたの働きをみてたがすごいな。どんなモンスターも一撃をよけたらその斧で一撃だ。熟練ってもんじゃないぞ」
キャッスルはそういってほめる。
冒険者の実績証明はこういった第三者の評価で成り立つのだ。新人の7階層まで行きましたとかいう自己申告ではない。
「それはどこかで作ってもらったものか。鍛冶屋の名前は」
「いえ、近所のおばちゃん所の裏庭に転がっていたものを借りてきました」
笑いどころがわからないジョークなのかと反応に困るキャッスルとピーター。
朝まではいつも通り素手でと思っていたが、集団戦だ。何も武器を持たないまま行くのもと思い直して近所のおばちゃんの息子がまき割りに使う古い手斧を借りてき。
新しいものを買って返すとは言ってあるから多少雑に扱ってもいいだろう。
「逆に一つ聞きたいんですけど」
「なんだ」
「西とか東ってファミリーの名前なんですか?ファミリーって人の名前が多いですよね」
「そんなことも知らないんですか」
ピーターはついそんなことを言ってしまった。
「よそ者なんで。どっかに入りたいなぁとは思ってるですが、やはり大きいところがいいのかなと」
それを聞いてキャッスルが説明する。
「ファミリーの前身組織ってのは隣近所の冒険者なんかが集まって作る寄合組織だったんだ。隣の冒険者のチーム、業界じゃパーティーっていうんだが、が危険になったら助けに行く代わりにこっちがダンジョンに行くときは協力してもらうとか、お互いに採用できなかったが芽がありそうな新人を紹介するみたいにな。だから実力より居住地ごとに集まってた。そういう組織がどんどん巨大化して、東西南北って4つの組織が生まれた。ダンジョンの塔を中心にして4つに地域別れたわけだな。その4つが集まって今の統括組織であるギルドを作ったわけだが、その際にダンジョン攻略より生活安定を目指す堅実派が多かった南の組織は率先してギルド運営に人をだした」
「ダンジョン攻略よりギルドの事務員や掃除夫の方が安全ですか」
「そう。で人がいなくなったから南は解散さ。北はギルドに行かず冒険者を続ける南の連中を受け入れたんだが、こっちは巨大化しすぎて派閥争いなんかが起きはじめた。結局小さな組織に分散する形になってこれも解散ってことになる。その時分散した組織の連中が、残った東西でも統括組織であるギルドでもないがパーティーよりも大きな集まり、ってことで街のやくざ者を真似て「ファミリー」と自称し始めた。これが今のファミリーだよ」
キャッスルは器の汁を平らげながら、マナーが悪い、そんな説明をした。
「東や西でも似たようなことは起きたが、東は元々パーティー事の独立志向が強くそれぞれにあまり介入しない集まりだったから、所属してるパーティーが合併したりしてファミリー制度に移行したうえでそのファミリーの集まりって形に変化してのこった。だから東の組織は幹部も所属するパーティーから立候補して投票で選ぶ。東に入りたいというなら所属してるどっかのファミリーに入るか、自分たちでファミリーを作って東という組織に入ることになるな。西もまぁ似たようなもんなんだが、こっちは緊急時の支援要員だったり西に来た依頼をこなすためにすぐ動かせる私兵を直接雇用してる。俺がはいってる銃砲隊がその口さ」
「アナシタシアファミリーは東に属してますが、完全に独立してます。当然東と西に所属していないファミリーもたくさんありますし、古参幹部直属で実質東の下部組織みたいなパーティーもありますよね」
「つまり
・冒険者の小さな集まりがパーティー
・パーティーが集まってできた大きな集まりがファミリー
・ファミリーの共同体が東や西
・東西関係なく冒険者全体の統括組織がギルド
って力関係でいいですか?」
実際はそこまで単純じゃないが些細な事。そんなこと書いても面白くはない。
「まぁそんな感じです。ですからなにか、今回みたいなこと、が起きたら西や東で残りのメンバーを引き受けるみたいな事もしてます」
「へぇ。そうなるとやはり東西に所属してるところのほうがいいみたいな話は」
「それは場合による、かな。ファミリーに入ろうがパーティー入ろうが人徳がない奴は助けてもらえんからな。人望がなけりゃ後ろから撃たれることになる」
「組織によっては離脱とか横のつながりにゆるゆるな所もありますしね。アナシタシアファミリーはギルドや東西との共同作戦も多いんです。隊長があんな感じでしょう。そういう所は所属してなくても色々なところが助けてくれたりします。受けた恩義を帰すって見栄ですね」
「そうそう、ジャンヌファミリーのボスもそういう恩義に固い人だったんだがな」
Nもピーターも彼のことはあまり知らない。
「おたくのファミリーのボスと同期って訳じゃないが、気が合ってたみたいだよ。共同作戦で二人で酒を飲んでるところをよく見た。だから力が入ってるんだろう」
そんな話をしながら、時間は過ぎていく。
業界人同士だ。いかんせん仕事の話の割合が多くなる。
説明回ですが読まなくていいです




