恋飴
三人は茶庫に着いた。普段からあまり混んでいることはない店で、今日は雪が降っているのでさらに人が少ない。 店内は高齢の女性が一人とカウンターに中年の男性が一人だった。どちらも時々見かける顔である。高齢の女性は読書をしたままだが中年の男性は三人に視線を向けた。
弥生はいつも通りに窓際に窓が左側になるように座る。その向かいに修一郎が座り、由利は〈失礼します。〉と言い、弥生の右に座った。この席に座ると弥生は窓の外に視線を向けて修一郎と話し、 反応を確かめる時だけ修一郎に視線を向ける。
マスターがやってきて
「何になさいますか。」
と尋ねる。
弥生はブレンドと答える。修一郎は〈恋飴のおまかせバージョン。〉と答えた。恋飴は常連さん専用の裏メニューでブレンドとスイーツのセットだ。スイーツはミントゼリーの上に自家製生クリームがトッピングしてあり、夏はバニラアイスだったりする。青い空と白い雲をイメージした青春と恋心らしい。由利も修一郎と同じものを注文した。
弥生がマスターに尋ねる。
「雪の日のおまかせバージョンは雪がのっているの。」
弥生は冗談で言ったつもりだったがマスターは真面目に答えた。
「はい、今日は生クリームではなく淡雪がのせてあります。」
ブルーミントのゼリーと淡雪の組み合わせは最適かどうかと言われると微妙だ。だからメニューには載せないで遊び心の解る常連様だけに提供している。