赤青黄
弥生がイトトンボを引き合いに出したので由利は修一郎から呪文のような言葉が飛び出すのかと期待した。ところが修一郎は一向に呪文を唱えない。
弥生は笑いながら
「猪突猛進の魔法使いね。炎と雷は得意なのに水と氷はまるでダメ。」
と言う。
「そう、オマエと一緒だ。」
修一郎がそう言い返すと、弥生はニヤリとして
「一緒にすんな。私は水の魔法は得意だぞ。ここにある草木の名前なら修一郎に負けない。」
と応戦する。
由利は携帯でイトトンボを検索していたのだが二人の会話の方がおかしくてつい聴き入ってしまう。いつもなら〈何で私が魔女なのよ。〉と否定する弥生が今日は自分から魔法使いと言っているのだ。
由利は修一郎と弥生の会話を聞きながら検索を続けた。
アオイトトンボの画像を見た由利は〈何となくそうね。〉だったがキイトトンボは〈ホントに黄色だ。〉と少し感動した。そうなるとアカイトトンボが気になり探してみる。そうするとアカイトトンボは見つからなかったがベニイトトンボに当たった。ベニイトトンボはショウジョウトンボを彷彿させる燃えるような赤だ。綺麗な水草に様々なイトトンボが群れていたら天然のアクセサリーだっただろうと、由利は鯉の泳ぐ水面を見て少し寂しくなった。
由利が再び修一郎と弥生の会話を気に留めると
「虫の話以外の思い出はないの。」
と弥生の言葉が耳に入った。修一郎は即座に
「新粉団子。」
と答える。弥生は
「じゃあ、その話。」
と言った。




