神柱宮
翌朝、修一郎が由利の実家に車で迎えに来た。由利には由香と言う双子の妹がいるのだが、由利同様に一人暮らしをしている。由利は空いている由香の部屋を使い、弥生が由利の部屋を使っていた。
「何処に行くのかな。」
車が走り始めると弥生が修一郎に話し掛けた。
「かんばしら神社。」
修一郎は即座に答えた。
「〔かんばしら〕って町の名前。」
弥生は不思議そうに尋ねた。
「都城市前田町にある神社で正式には神柱宮、神の柱って書く。確か祭ってあるの天照皇大神と豊受姫大神その他諸々。行けば判るさ。」
「あら、意外に短く纏めたわね。屁理屈論を並べるかと思った。でも凄い名前。神宮でも神社でもなくて宮なんだ。宮って宮崎の宮よね。」
「なんだ、自分も屁理屈並べてんじゃねぇか。」
「うっさいなぁ。由利ちゃんは何か知ってる。」
修一郎と弥生はキャッチボールで会話を続けていたが、弥生は由利に気を使ってか話を振った。
「いえ、考えた事もありませんでした。よく考えたらホントに凄い名称ですね。それに気付く弥生さんも凄い。」
由利は咄嗟に答え、文学部史学科卒にしては陳腐だなぁと少し後悔した。
由利が喋り終えると少し間が空いた。
修一郎が
「俺もずっと神柱神社だと思ってたんだ。出雲大社、伊勢神宮、宇佐神宮とは格が違い過ぎるって。宮崎と鵜戸も神宮だな。とにかくシンプルに宮と知って驚いた。塩味だけで旨い料理みたいに。」
と言うと弥生が
「最後の塩味は何なの。あなた変よ。」
と返す。修一郎はそれでも
「出雲と宇佐、神柱の注連縄は左巻き、島根だと美保神社が右巻き。左は中の神様が外に出ないように、右は外から中に入らないようにの結界説があるんだ。素人研究の範疇だけど。」
と話した。弥生が即座に
「伊勢神宮は。」
と尋ねると修一郎も
「無い、出入り自由。」
と即答して、
「伊勢神宮は将軍家、右が親藩譜代、左は外様。」
と続けた。
修一郎の話を聞いた由利は古墳時代の勢力抗争を戦国時代と比較して、そうかもしれないと納得した。同じ人間なのだから。
再び会話が途切れ、弥生が繋ぐ。
「かんばしらであなたの屁理屈論を延々と聞かされるのかしら。」
「トンボを探す。池のオニヤンマ。」
「何、それ。都城は盆地だから池にオニヤンマがいるの。」
弥生か驚いて尋ねた。弥生は昆虫や恐竜が好きだ。由利は虫や自然の小動物には詳しくない。
「正しくはオオヤマトンボ、護岸されていなくなった。」
修一郎が言うと、
「私、見たことない。いたらいいな。」
と弥生は寂しそうに言った。