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妖精
弥生はティラミスを一口食べると修一郎の前に戻した。いつもながら由利にはこの光景が恋人同士か仲の良い夫婦に見えてしまう。
窓の外を見ながら弥生は口に入れたティラミスを飲み込むと修一郎を見た。
「修一郎、雪男の話ばかりじゃなくて雪女の話もしてあげたら。雪女の正体を短編小説にしたんでしょ。」
弥生は喋り終わると意味ありげに微笑んで窓の外を見た。
「ここで頭の中にある文章を朗読するのか。」
外はすっかり暗くなり、風に煽られて窓ガラス近くを舞う雪はのイメージは雪女というよりも雪の妖精だ。修一郎は窓に映った弥生の顔を見て苦笑いをしている。
「課長、私読んでみたいです。怪談の雪女みたいな感じなんですか。」
「こいつの小説は相対性屁理屈論だから疲れるわよ。」
由利の喋りを追いかけるように弥生は言った。