A4の未来像(他3篇)
「A4の未来像」
そこに一枚の紙がある
今はまだ 紙があるだけだけど
今にきっと誰かがやってきて
紙をその手に取っていく
会議の資料に使うために
今日スーパーで買ってくるものを書き出すために
宿題に使うために
誰かの物語を広めるために
もしかすると
その紙に書かれたものが
誰かの人生を変えるのかもしれない
良くも悪くも
もしかすると
子どもがびりびり破いて遊ぶための紙になるか
おやつにポテトチップスを乗せるための紙になるのかもしれない
どうでもいい戯れ言の羅列と言われ
数行何かを書かれただけで棄てられるのかもしれない
けれど今はまだ
そこに一枚の紙があるだけ
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「雪に価値をつけるのは」
温かい地方に住んでいるわたしは
あまり雪が積もっている光景を見たことがなくて
小さい頃はただ寒いだけの冬に辟易していた
それでもごくたまには
この町にも雪が積もることがある
雪国で見るような
天が落とす翼の抜け殻みたいな雪ではないけれど
乾ききった町につかの間静けさが訪れるのが好き
その次の日はたいてい
直ぐに止んでしまった雪を誰かが固めて
いつの間にか公園の端っこに雪だるまができている
草や土が混じっているのは言うまでもなくて
日陰に汚れた雪が残るだけになった日でさえも
塀の上に残った雪をかき集めた
手のひらほどしかない雪だるまができていた
それは水っぽくて歪で雪玉にもなっていない
なんだかいじらしくなるようなものだった
きっとその雪だるまを作った子供は
どうして雪がもっと積もらないんだろうと
そう思っていたに違いない
そう、この間雪国に行ってきたよ
きみの憧れているような真っ白な世界がそこにあった
隅から隅までまっ白で
止む気配も無く
雪を町であんなに待ちわびていたわたしたちは
いったいなんだったんだろう
この雪がとけないうちにと
雪だるまをつくった子供は
なんだったんだろうとも思ったけれど
あの雪だるまは
きっとここでは誰も作らないし
ここでは作れないんだと
その白さの中でずっと立っているうち
やっと分かってきた
わたしはあの溶けかかったぐしょぐしょの雪だるまこそに
愛しさを感じていた
そういうこと
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「続いていく」
前の見えない未来を前にした日
期待は少なかった
周りから向けられる言葉に
笑顔を取り繕っていても
ひとり海へなげだされるような不安に
押しつぶされそうだった
それは幼い頃
いつか自分も大人になって
そうして時を経た最後に死を迎えるときが来ることを
いつかかならず来る現実として
ふいに感じてしまったあの時から
始まったのかもしれない
考えたってしかたないことだと思う
何もない未来に足を踏み出す前の不安も
想像もつかないのに変えようのない未来に感じる怯えも
でもそれを感じてしまうのもしかたないことで
私ができるのは過去を振り返ること
明日を想うこと
私が知っているのは
歩いてしまえばなんてことない道なのかもしれないということと
それでも結局私は歩こうとしているし
歩き続けることができているのだということ
とりあえず無事に今まで生きてこられたという事実
それぐらいのもの
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「コスモスの探し人」
美しい音楽が揺り起こすもの
穏やかな珊瑚礁の海が想起させるもの
懐かしい記憶を辿った底にあるもの
都会の喧噪が息を継ぐその瞬間に
誰かを探したくなる気持ちに襲われる
コスモスの咲く野原で髪を靡かせるその人に
手を伸ばしていた夢をみる
青い感傷に過ぎないのは分かっている
追い求めるその人にはいつまでも会えない
そして
会えないからこそ恋は続いている
そんな僕のささやかな秘密
今日の空に
コスモスが舞う