桃源郷と泉の主
大きなタペストリーだが、さほど目を惹く模様とも思えない。
年代物なのか、所々の色は剥げて生地も傷んでいる。
見たことがあるような・・曖昧でどこか懐かしい。
暫く首を傾げながら見入っていると、
いつの間に、彼が近くにいたのだろう?
アスランの低い声がクリスの耳元で囁いた。
「breacan~ブレアハカン」
聞こえた瞬間、クリスが目を見開く。
心臓が一度ドクンと鳴り、記憶が過去の時代へと遡る。
自分が旅をして来た~200年以上前の異国とその混乱した時代~
一度目を閉じ、再び開いて目の前のタペストリーを見つめた。
そうか・・このアラベスク文様は、後で誰かが手を加えたものだ。
生地自体の下模様は、ゲール語でbreacan~
英語では~tartan・タータン。
日本でもタータンチェックとして、一般的に知られているデザインである。
250年ほど前までは、ハイランド地方において、
氏族により模様が決まっていたという格子柄だ。
そう・・か。
これは・・上から描かれた幾何学模様を取り外して見ると。
古くて、もうひどく薄汚れてしまっているけれども、確かに頭の片隅に残っている。
いや、多分忘れようと努力はした・・無駄なことでも。
~兄への記憶と深く結びつくものだから~
深呼吸を、ひとつ。
「なぜ、これがここにあるのですか?」
クリスの質問に、アスランは頷く。
「なるほど、君が所属する協会のトップ・シークレット画面に記されていた事は
事実のようだね。」
彼は目を細めて彼女を見た。
「ふふふ。
まさか、人間が本当に過去へ旅するなんてね。
信じられなかったよ。
でも、そうか。
やはり、あれは君だったのか。
このタペストリーに見覚えがあるところをみると、どうやら真実のようだ。
ああ・・それも、妖しの力によるもの・・なのかな。」
嬉しそうに笑みを浮かべるアスランを前に
クリスは紅を握り締めた。
「過去へと旅立つ者有り、手にするは古の刀~妖刀・紅~月の加護を受けるモノ也~
~帰還せし時、妖刀・暁~帰るも、持ち主・未帰還・行方不明(生死未確認)也」
アスランが口にした言葉は、確かにガーディアン協会の極秘事項だが・・?
クリスは紅を両手で握り締め、身構えた。
「ガーディアン依頼に関して、そこまで調べる必要があるでしょうか?」
その言葉と動作にアスランは動じず、それどころか彼女に一歩近づいた。
「まあ、そう警戒しないでくれたまえ。ただ、僕らには強い人間が必要なのでね。
そういう意味では、君たちは特別な存在ではないかな?
多分、人間社会においてのガーディアンとは。」
「先ほどのようにカウバーが襲撃してくるから、ガーディアンが必要という事ですか?」
硬い表情を崩さないクリスを意に返さず、彼は又一歩彼女に近づいた。
「そんな怖い顔をしないでくれたまえ。
今のままの君を連れて行くと、森の友人が驚いてしまうよ。」
は・・?
友人?
その時、薄暗い部屋の中に、どこからか低い弦の響く音が聞こえてきた
旋律はBachの無伴奏チェロ組曲第1番ト長調プレリュードか。
一瞬、瞳を動かしたクリスにアスランは微笑んだ。
「エディルはチェロの名手でね。僕が森へ行く時には、必ず弾いてくれるんだ。
そうすると他の者達は皆、僕が音楽鑑賞をしていると思ってくれるのさ。
彼の弦が鳴り響いている間は、誰一人部屋へ入って来ることはないよ。
都合の良いことにね。」
『・・それは、どういう意味だろう?』とクリスが首を傾げた時
いきなりアスランの右手が紅を掴んだ。
ハッとしてクリスは身を引こうとしたけれども、彼は逃がすまいとするかのように左手で
彼女の肩を抱き寄せた。
「・・何をする・・。」
彼の胸の中でもがく彼女の耳に、静かなアスランの声がした。
「ジッとして・・空間移動が君にとって気持ちの良いものじゃないだろうから。」
空間移動~?・・って。
・・確かに、そう聞こえたけど。
テレポートってこと?
それは・・それでは、彼はESPerー超能力者?・・いや、人間ではないのだから・・違うか。
ううん、人間ではないからこそ力を持っているのかもしれない。
クリスはもがくのを止めて、アスランの顔を見上げた。
彼女を見下ろす彼の目は、金色の瞳が輝き虹彩の紅い色と溶け合って真紅に見えた。
それはとても深い紅色~scarlet・eyes~
その緋色の瞳は一度出逢ったら、けっして忘れる事が出来ない程の強い輝きを放っていた。
宙に浮いている!~エレベーターが下降する時のふわりとした感覚。
アスランの周りで、実体を伴わない空間が歪む。
足元がとても不確かで、気持ちが悪い。
・・なんだろう、これは月光の中で200年以上の時代を超えた空気の感触とも違う。
目の前がグルグルと次第に暗くなっていく。
どうやら、目眩がしてきたらしい。
体中の力が四散する気持ちの悪さに、気を失いかけながらもクリスは紅を放さなかった。
崩折れそうになる体を、アスランがしっかりと抱いていることなど気付きもしないで。
「苦しいかい? 初めての空間移動はどうだったかな?」
足がしっかりと硬い地面を感じた時、アスランの声がした。
徐々に意識がハッキリとしてくる。
けれでも気分の悪さは変わらなかった。
しかし、クリスは毅然とした態度を取ろうとした。
いつまでも依頼主に体を預けているわけにはいかない~ガーディアンとして不甲斐ない。
「おう~や、やっと来たのかえイ?」
遠くから声が聞こえて、クリスはそちらへと目を向けた。
目の前に広がる、緑の濃さに驚いて体をぐるりと廻す。
前方に太陽の光を反射している場所が見えた。
「ここは、森・・ですよね?」
「そうだね、森でもあるし。シャングリ・ラ、桃源郷とも言うべき泉を抱いた場所かな。」
「泉が?」
そうか・・あれは、泉の水が陽光を輝かせているのだと気付いた。
「あらぁ、遅いから食べちゃおうかと思ったわあイ。」
その、ハッキリとした甲高い声に驚いてクリスは辺りを見回した。
すると直ぐ側の森が動き、人の形をした物が進み出てきた。
「ふう~ん、なあに・・人間じゃあないの?
匂いで分かるわあイ。
アスランはこんなモノが欲しいのオ?」
クリスはギョッとして、思わず一歩後退さる。
出てきた者は、異様な人の形をしていた。
顔と手が薄い緑色をしていて所々が鈍く光っている。
着ている服も、長いローブだが緑色だった。
なかでも、その目と口には今まで出会ったことがない。
それは、縦長の黄色い瞳と真っ黒い尖った歯。
見れば見るほど、人外~という言葉にピッタリだ。
「驚かせたかな?
名は、バジルスという。
彼が、ここの泉の主だよ。」
「泉の・・主?」
つまり、彼がここの住人ということ?
「ああらア、これはどうしたことかしら?
この人間は・・固まらないのねイ。」
「そう、彼女は特別なんだよ。
だから、呼び寄せたのさ。
探し出してね。」
アスランはそう言うと、クリスを見つめた。
{おい、初対面の挨拶は済んだのかよ?}
突然、ネスの声が頭の中に響いてきた。
{ネス?・・一体、どうしたって言うの?}
{そいつに食われちまうところだったんだぞ?}
{そんなこと言ったって、テレパスが通じないもの。
分からないじゃないの!}
{こいつに封じられていたんだよ!!}
すっかり不機嫌なネスは、ギャンギャンとクリスに文句を言った。
{で、どうしたって言うのよ?}
呆れながらも、ネスが無事でホッとした。
{固まっちまっているんだよ!!}
{・・? 何ですって?}
{だァかァらあ~、動けないんだ・・な。}
しょぼくれているキツネの声はひどく哀れに聞こえた。
クリスは辺りを見回し、ネスを探す。
{何処?}
そういえば、彼が送ってきた映像には・・そうか、水ね!!
泉までダッシュ。
あと一歩で泉の縁という所に、大輪の花を咲かせた沢山の薔薇が咲いていた。
それも、隙間なくビッチリと植えられている。
まるで、行く手を阻むかのように。
{すごい、薔薇の生垣みたい。よくもまあ、棘に引っかかれなかったわね。}
{ああ~、その薔薇には棘がないんだよ。}
{えっ? そうなの・・}
そう言われて良く見ると、確かに棘は見当たらない。
「へえ、棘のない薔薇もあるんだ。」
思わず声に出して呟いた。
「そうだよ、それらは僕が育てた薔薇だからね。皆、棘はないんだ。」
いつの間に、アスランが横にいるんだろ?
{フン、もう少し注意深くなって欲しいよ。
目に見える物を良く見ないで、今までの既成概念で物事を考えるから気付かないんだろ。
まあ、お前はマダ子供だからな・・許す。}
これには、クリスも苦笑した。
まったく、注意深い行動が取れていたら・・助けを呼ぶ事態にはならなかったんじゃあない?
まあ、キツネだものねえ~許してあげるよ。
「こっちへ・。」
アスランが先に進み、こちらへと手を差し出す。
薔薇の植え込みを抜けて、ネスの所へ案内してくれるらしい。
先ほどの事があるので、クリスは用心して紅を持ち替えてから、彼の手を取った。
そんなクリスの一瞬のためらいに気付いたらしく、アスランは微笑ししいる。
「あの時は、驚かせたようだね。すまない。
君の紅を取り上げるつもりはないから、安心してくれたまえ。」
そう言われてしまうと、一応は頷いておく。
バジルスは・・と見回すと、何処にも彼の姿が見えない。
泉の主は何処へ行ったのだろう・・?
薔薇の生垣を抜けてもアスランは手を離してはくれなかった。
クリスはなんだか落ち着かず、気恥ずかしいような気がして。
依頼主の手を救うのはガーデイアンの仕事であって、
けっして…こんな風に~傍から見ると仲良く~並んで歩く事などしないのだから。
{やれやれ、やっとご到着かよ。}
その時ネスの声がしなかったら、いつ、彼の手を離したら良いのか分からなかったろう。
泉の縁に、こちら側へ背を向けたネスを見つけた。
クリスは走り寄って彼に触ってみる。
なんだか、いつもより毛並みが硬く感じられた。
「固まっているの? でも、なぜ?」
「ここの泉は侵入者が水面に触れると、相手を固まらせてしまうんだよ。」
アスランの言葉に彼女は驚いた。
「まるで、意思のある泉みたい・・。それとも・・?」
「ああ、見張っているのさ。術を掛けてね。」
「術・・?」
と聞いて、競技会中に起きたカウバーの襲撃を思い出した。
「つまり、術を掛ける事が出来る者がここに居るということ?・・それって。」
アスランはクリスの問いかけには答えずに
「さあ、彼をどう救おうか?」と含みのある言い方をした。
緑の香りが濃く漂っている。
上空から見下ろした時にジャングルだと勘違いしたのは、
まんざら見当違いではなかったようだ。
シャングリ・ラ、桃源郷~と名付けられている位だから、生徒達がここへ近づくのは難しいことなのだろう。
どこにも、そう、獣道の一本さえ、見当たらないし。
そういえば、獣・・たちが。
小動物~きつね、りす~いや、鹿とかも
この森にいるのだろうか?
もりなのだから、居てもおかしくはないはず。
けれど、鳥の鳴き声はおろか、虫の一匹も飛んでいないなんて。
そう、あまりにも、ここは静か過ぎる。
音のない世界に、ネスが彫刻~キツネの剥製~置物として、そこに置かれているようだ。
泉全体が紫色の水面をクリスは覗き込んだ。
{??・・変ね。確か・・足の部分だけが変色していて、その周りは水の色だったような。}
{ああ、そうだ。徐々に変色していったんだ。そうしたら、動けなくなったのさ。}
{そう?・・じゃあ、どうすればいいのかな?}
クリスが眉を寄せて考える素振りを見せた時、水面がざわざわと揺れ始めた。
{まずい!! 耳を塞げ!!}
ひどく慌てたネスの声に続いて、弦の音が響いてきた。
それは泉全体に伝わるに従って紫色の水面を波打たせ、時折陽光を四方へと反射させた。
「リュート・・?違うかな。うん、チェンバロのようね。」思わず声を出したクリスに
バジルスの不機嫌そうな声が応えた。
「いやあよゥ。クラブサンと言ってくれなきゃァ。」
{どっちでもいいぜ!! 呼び方なんて。
ハープシコードだろうが、俺は構わないがな。}
「これはミューズたちの語らい、ラモーのクラブサン曲集の一つだね。」
アスランが教えてくれた。
「耳を塞がなきゃならないほど、下手な演奏とは思えないけれど。」
なぜ、あんなことをネスは言ったのだろう?
「ああ、そうだね。君に彼の術は、効かないようだ。」
「えっ? それは、どういう・・」
{あいつの演奏する楽器が術そのものなんだよ!!}ネスがギャンと吠えた。
「これが、術?」
{そうだ!! どんどん体が固まっていく~。 何とかしろよ、小娘!!}
「まさか・・ネスが死んでしまう!? 」
驚いて、アスランの顔を見る。
「バジルスは何処ですか? 彼を止めなきゃ。」
クリスの気持ちに反して、アスランは首を横に振った。
「彼を見つけたところで、君のキツネを助ける事は出来ないよ。」
少しの間、2人の瞳がぶつかる。
挑むようなクリスの強い想いに、アスランは片眉を動かした。
「分かったよ。君のフルートが、その音色で合わせれば術が調和されるだろう。」
「ああらァ、フラウト・トラヴェルソだなんて・・良いわようィ。そうねェ~」
術が破られるかもしれない、というのに当のバジルスは気にする風もなく
新たな旋律を爪弾きだす。
フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタロ短調BWV1030・アンダンテ
一刻も早く、ネスを自由にしてあげなきゃ。
急いで、腰に下げた皮製ケースからフルートを取り出す。
手にしていた紅を両足元の間に置いた。
その様子を見ていたアスランは、目を細めて紅を見つめたけれど
先ほど彼が言ったとおりに、強引に妖刀を奪う事はしなかった。
その調べは泉だけではなく森全体へと広がっていく。
奏でる音の一つ一つが目に見えない音符となって、水の中へと吸い込まれていった。
フルートの繊細な音色は、焦りそうなクリスの気持ちを静かに落ち着かせてくれる。
震えそうな気持ちでこの曲を吹くのは、随分と久しぶりだ。
{おお~、体が。自由に動く~、元に戻ったぞ!! コ~ン!!}
ネスの弾んだ声でクリスは、泉が透き通った水の色に戻ったことに気付いた。
自由になったネスは彼女がフルートを吹いている間中、足元に座り尻尾を彼女の足にぶつけながら拍子を取り続けた。
ネスの呟く声が聞こえる。
{まったく、やれやれだぜ。}
演奏が終わった時には、キツネの姿が消えていた。
{何時の間に・・まったく~こっちがやれやれよ。}
内心ため息をつきながらフルートを仕舞う。
紅を手に持ち、顔を上げると目の前にはバジルスが立っていた。
何時の間に?~一体何処から、彼は来たのだろう?
まさか、泉から湧き出たわけじゃあ・・。
泉の中に浮いているところを見ると、きっと水面を歩いて来たに違いない。
普通には考えられないけれども~ここは普通じゃあないしね。
まあ、彼自身も含めて。
「うふゥ~、良いわァ・この人間。さっきのゴワゴワしたのよりおいしそうだしィ。」
正面から見つめられて、ニタァ~と笑われたら・誰しも背中がザワリとするだろう。
バジルスが縦長の目をさらに縦に細くして笑う。
その時に見せた彼の歯は、黒光りする鋸のように尖っていた。
「からかうのはそのくらいで良いだろう。彼女は客人だからね。」
アスランの言葉に彼はプイっと横を向いた。
「つまらないワァ。アスランは人間が好きだものねエィ。」
クリスは見れば見るほど不気味なバジルスを不思議に思った。
どうにも・・人間はもちろん、BD族にも、守人族にも・・見えないのだけれど。
クリスにじっと見つめられて、バジルスが楽しい事を思い出したように言った。
「そうおだァ。歓迎のカウバー達はどうだったかしらァ?」
「えっ? やはり貴方だったのですか、あれらに術をかけたのは?」
かも、知れない・・と、チラリと頭の片隅で思っていたことを
あっさりと認められた気がする。
それはまた・・随分と単純な・・拍子抜けしてしまう・・というのか。
「ああ、そのことなんだけれど。」
アスランが少し眉を寄せて言い難そうな様子を見せた。
「バジルス、君のかけた術に余計な手を加えた者がいるんだ。」
「へえぇ~、なあにィ?」
「本物のカウバー達に術をかけて、彼女とファタミ達を襲わせたんだよ。」
「まあァ~、なあんてェ・・興ざめな事をしてくれるわネェ。」
のんびりとした言葉とは裏腹に、どうやらかなり気分を害したらしい。
「ふうん、許せないわァ。可愛いカウバーちゃん達を酷い目にあわせたなんてぇ~。」
あれれ・・? もしもーし、襲われて酷い目にあったのはこっちの方なんですけどね。
すっかり、クリスは呆れていた。
自分勝手な解釈をする彼には苦笑するしかない。
「それで、君から贈られたタペストリーのことなのだが。
どうやら、彼女には見覚えがあるらしいよ。」
「ほおゥ~んとォ。あれは、素敵でしょゥ。
あの、格子柄とゥ~アラベスクゥが絡み合ってぇ
なんとも言えないのようネェ。」
うっとりとした目~縦長の瞳を精一杯丸くして~バジルスは嬉しそうに言った。
「あれは、元々あの模様だったのですか?」
クリスの問いに、彼は驚いたような表情になった~縦長の瞳が横へ広がる。
「あらァ~、知っていたのゥ~?
詰まんないわネェ~。
それがネェ、あれが見つかった時・・と言ってもゥ、遠い島のゥ
お墓にあったらしいんだけどゥ。何でもゥ、有名な賢者様の亡骸を包んでいたってぇ
聞いたわァ。
その時は唯の格子柄だけだったってぇ。
でもゥ、格子柄模様はァ、禁止デザインとかでぇ・・模様のことよォ・・
見つけた人間がァ、幾何学模様を入れたってぇ。
その頃ォ大陸にいたァ~アたしへのゥ貢物の一つだったのよねぇ・・それでネェ~
アスランがァ皇子殿下としてぇ
この島へ来た時にィ
アたしからァ プレゼントォしたのようゥ。」
長たらしい、彼の話し方には面喰らったけれど・・。
要するに、賢者と言われた~少なくともそう思われていた~
誰かの遺体を包んでいたということだ。
それは・・もしかしたら・・。
クリスは賢者と聞いて、その言葉に拘っていた。
あのタペストリーがどの時代・時期に作られたものなのか?
「そのぅ・・タペストリーに包まれていた人間はどうなったのでしょう?」
クリスの質問する意味が良く分からない様子で、
バジルスはポカンと半開きにした口から鋸状の歯を覗かせていた。
「墓という場所で見つかったということは・・死、以外にあるのかい?」
アスランの言葉が正しい、きっと、それは100パーセントで。
クリスは目を閉じて、首を横に振った。
「賢者と呼ばれた人間が、生きている・・とでも?」
クリスはただ首を横に振るばかりだった。
「たとえ彼が、君の持ち帰った~妖刀・暁~を手にしていた者だとしても。