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王族とのお茶会

「いいねえ~彼女は。うん、髪と瞳の色はともかく。それなりに可愛いし。

あんなに、魅力的だとはねえ、人間にしておくのは惜しいなあ。

いや・・まあ人間でも・・。」

目を細めながら、マルセルが呟く。

この時、彼の瞳がく色づいていることにカイルは気が付いた。

『殿下が興奮している証拠だ。』

うっすらと紅く瞳を輝かせて、獲物を狙うみたいにジッとクリスを見つめていた。


ステージ上の2人も、事の終結を見て満面の笑みを浮かべた。

「どうだい、エディル。良いだろう、彼女は。

分っていたが、資料以上だ。」

「そうですね、殿下。どうやら、術に気が付いたようですから。」

「フフ・・。紅、と言ったかな。妖しとやらに触れるのが楽しみだよ。」


紅を鞘に収めたクリスにネスは少し苛立って言った。

{おいおい、力の使い過ぎだぞ。}

{えっ・・そうかな? でも、綺麗に片付いたでしょ。}

確かに、もう一羽たりとも空中にカウバーの姿はなかった。


「嘘だろ!! どうやって、追い払ったんだ? 

あの数を・・。しかも、一瞬で。」

フランツは『信じられない』と言う表情を見せて、クリスの傍らに来た。

「そう?  じゃあ、彼にでも聞いてみれば?」

ステージ方向から走ってくる、ピエールを見てクリスはそちらを指差した。

彼はクリスのところまで来ると、まごついたような表情を見せて言った。

「いやあ~まったく、一体どうした事なんでしょうか?

 ホ・ホントにこんな事は初めてですよ。

カウバーが取り乱すなんて。

まあ・・とりあえず・・ええ~っと、殿下のお言葉を伝えますね。

貴女をお茶に招待しましょう・・だそうです。」

彼はかなり慌てていたらしく、競技開始前に預けた花束を手にしてはいなかった。

{フン・・こいつの方が、よっぽど取り乱しているぜ。}

{う~ん、残念ね。

花束なんて貰うこと、そうあるもんじゃあないのに。}

実際問題として、喉が渇いていることに気が付いたクリスはその申し出を快諾した。

{この島は乾いているのかな?}

{そうか?まあ、熱帯地方だろうからな。}

{その割りに暑くないよね。}

{まあ、な。続きの質問は、ここの領主様にでもしてくれ。}

そう言うと、ネスはピエールの案内に付いて行くクリスから離れて行った。

フランツはアリーシャのところへ行くのか「じゃあ、またな。」と駆けて行ってしまった。

ファタミと守人ライルの2人は、何事もなかったようにさっさとその場を離れて行く。

ただ、立ち去る間際にライルはクリスに目礼をした。

守人なりの礼儀なのだろうか。

多分、彼の守るべき殿下を護った事への。


陽当たりの良い回廊を歩きながら、ふとクリスは疑念を持った。

~彼らが吸血族・バンパイアの末裔なら、明るい太陽の下で生活など出来ないのでは?

日中は眠り、夜に活動をする・・映画とか、物語の中ではそう描かれている。

今世紀にもなって、吸血族が夜に活動するというのもちょっと、不気味ではあるけれど。

回廊を抜けて、ステンドグラスに色とりどりのバラをあしらった扉を開けると

そこから先は・・バイオレット・ブルーを基調とし、

色彩溢れるバラの花々が描かれた絨毯が敷かれていた。

壁には一面に、やはりバラの花畑が描かれている。


「ここから先は、王族専用住居となっております。

あなたの部屋も殿下の隣にご用意いたしました。

 どうぞ、ご安心ください。」


なんだか、引っかかる。

・・安心しろって、どういう・・?

何故、そんな事を言うのだろう?

廊下の窓は、全てがバラの形をしたステンドグラスだ。

バラの花がこの島の特産品かもしれないと、そろそろクリスも気が付いた。

そこは、天井をステンドグラスが覆い、大きなバイオレット・ブルーのバラがひとつだけ描かれている円形の小さなホールだった。

壁際のあちらこちらには、小バラのポットが置かれている。

どうやら、ここが目的の場所らしい。

壁際に少人数編成の楽団が配置され、既に音楽を奏でていた。

お茶会に合わせた選曲だろう。

静かに流れている曲は、マーラーの交響曲第5番第4楽章・アダージェット。

対する、壁際にはそれぞれの守人4人が並び立っている。

そうして、その前の円形テーブルにはぐるりと王族4人が座っていた。

「殿下、お連れしました。」

ピエールの声を受けて、アスランが頷いた。

「ご苦労だったね。ピエール。本来の仕事に戻ってくれたまえ。」

その言葉にピエールは一礼し、今来たばかりの通路を戻って行く。


「さて、座ってくれたまえ。飲み物は紅茶で良いかな? それとも・・」

アスランが、クリスに話しかけているところを

勝手に引き継ぐかのようにファタミが続けた。

「ここには、人間の好きなコーヒーやコークもあるし。

ああ、あんたはウィスキーの産地を旅して来たんだっけ。

でも、アルコールはまだ早いんだよね。

あんたの年齢では・・確か人間社会で言うところの・・未成年だっけ?

・・だったら・・」

多分、彼はしっかりと意識を取り戻したのだろう。

おそらくは、クリスにノックアウトされたと言う事実を!

青白い頬を高潮させて、早口に話すファタミはきっと居心地が悪いに違いない。

ほんの少し前に、戦いで負けた相手と同席することは。

それは誰にとっても、同じことだろう。


「ファタミ、いい加減お前は見苦しいよ。彼女が困っているじゃあないか。」

クスクス笑いながら、マルセルが弟を制した。

「優美・華麗に舞う。

そんな戦いを見せてくれた君には、やはりレディ・グレイなんかがお勧めだよ。

僕のオリジナル・ブレンドを贈ろう。」

そう言うと彼は指を鳴らした。

すると、奥に控えていたらしい女子生徒がトレーに紅茶カップとスコーンを載せて出て来た。

緊張しているのか、少し震える手でクリスの前にそれらを置くと、一礼して下がって行く。

「有難う。」

お礼を言うと、ギョッとしたようにクリスを見つめ、それからぽっと頬を染めた。


カップとお揃いのソーサーは薄緑色で、其々金色の縁取りがしてある。

きっと、高価な一客なのだろうと見ている間、

カップの内側に少しづつ色が浮かび上がってきた。

やがてそれは、鮮やかな黒色に縁どられた黄色い蝶の形となった。

「どうかな、気に入ってくれたかい? 君のイメージに合わせて選んだのだよ。」

クリスは少しまごついた。

曖昧な微笑を浮かべながら「それは、恐れ入ります。」とだけ応えた。

どうだろう、初対面の挨拶では握手さえ無かった相手の、このご機嫌ぶり。

紅茶の香りはとても良いのに、なんだか自分が蝶のイメージというのも・・。

何かに例えられたのは初めてのことだけれど。

思いの他、それはこそばゆいモノだ。

こちらがそれを気に入るかどうかは別として。


「あのね、私・・ちょっと驚いたのよ。

本当にクリス・・貴女・・強いのね。

あれは・・えーと剣なのかしら? それとも、

人間の魔女とかが使うステッキみたいなもの?

だって、ファタミと闘う時には、剣を使わなかったじゃあないの?」

ナタリは興味津々と言ったように目を輝かせている。

「ああ、そう見えたね。

なんて言うか・・とても古い物かい?

 何の装飾もなされていないようだし。」

やはり、関心を持ったのだろうマルセルまでもが紅のことを聞きたがっている。

クリスは膝の上に置いた、日本刀をキュッと握り締めた。

「ええ、これは、とても古い剣なんです。

日本刀ですので、カタナと言います。」

「あらあ、ステッキではないのね。」

ちょっと、ガッカリした様子でナタリは呟いた。

「どうせ、僕が弱いから剣を抜くほどもないと思ったんだろう?」

ファタミは、ため息混じりにそう言った。

「だから、剣ではなくカタナですって。

いやあね、弟ったら、弱い上に卑屈なのよ

。兄様達に比べて出来が悪いんだから。」

ナタリの冷たい言葉にファタミはカッとなったようだ。

「ふん、よく言うよ。

姉様だって、ガーディアンだろうと、人間なんか馬鹿に決まっているって~

言ってたじゃあないか。

それが、僕より強いと分かった途端、これだもんな。

調子いいよ、まったく。」

ここへきて、姉と弟の喧嘩に発展するとは・・。

「あら、馬鹿だなんて言っていなくてよ。

ただ歴史上、同じ種族同士で戦争を繰り返しながら、この地球を色んな意味で破壊する困った存在って、そう言っただけ。」

なるほど、正論かも・・恐るべし、姫君・・クリスは心の中で苦笑した。

「何、言ってんだよ。同じ事だろ!」

ファタミの言葉をアスランが止めた。

「2人とも、もう良いよ。客人の前なのだから姉弟喧嘩は止しなさい。」

苦笑を浮かべながら、クリスに

「失礼したね。

君の事を悪く言ったのではないから、気にしないでくれたまえ。」と気遣った。

すると、又何かに気付いたらしくナタリは声を上げた。

「人間は、特に女性がね・・おしゃれだって聞いたのだけど。

それ、流行っているの?」」

彼女の目はクリスの首に巻かれた物を観察している。

ただ、チョーカーを隠すためにスカーフと同色のバンダナを巻いているだけなのだが。

そのチョーカーも宝石という代物ではなく、

薬物に代用が利く小さな貴石を幾つか嵌め込んだ物に過ぎない。

一応これも、協会が開発した医療品の類なのだが。

任務に就く時、その上にバンダナを巻いているという、ただそれだけ。

どうやら、そんな物が彼女の目を惹いたらしい。

「僕は、それより君が腰に下げているケースの正体を知りたいなあ。」

マルセルまでが、他にも気付いたとようなことを言い出した。

「あれは、予備のカタナかい?」

ファタミときたら、「そうそう~」と

「あの時使った、小刀はなんだい?」と思い出して聞いてくるし。


クリスは紅茶のカップをソーサーに戻し、両手を膝の上の紅に揃えて置いた。

「皆さん、色々と御質問を有難う御座います。

私はガーディアンとしての任務で協会から派遣されております。

申し訳ありませんが、協会内部の情報に抵触する内容については、お答え出来かねます。」

ニッコリ、やんわりと彼らの興味関心を退けた。

その途端、一斉に彼らが興ざめの表情を見せたけれど、クリスは無視することにした。


それより、こちらも聞きたいことがある。

『なぜ、あの時カウバーが襲ってきたのか?』

『あのような事が、今までも度々あったのか?

だとしたら、何時・どういう時に?』

~でもこれは、他の王族がいないところで、アスラン殿下に直接聞いたほうが良いのかもしれない。

~もちろん、彼が信用に足る依頼者だということが絶対条件ではあるけれど・・

突然、クリスの頭の中に悲鳴が聞こえた。

{!?}

一瞬だったけれども、確かにネスだ。

でも、彼が悲鳴を上げるなんて~考えられない!

余程の獲物を見つけたのだろうか?

いや、決して歓喜の叫び~には聞こえなかった。

同時に見えた映像が、なんとも不思議だし。

そこには、キツネの前足とそれが触れた部分だけが紫色に変色した水が映し出されていた。

{ネス?}

返事が返ってこない。

嫌な感触がする。背中に鳥肌が立つような。

まるで、何かに動きを封じられているみたいだ。

頭の後ろがチクチクして寒気がする。

行かなきゃ・・でも、彼は、何処にいるの?

その時、ピエールに言われた言葉を思い出し、ハッとした。

ここのルール~『案内人無しで、森へは行かないように。』と、彼は忠告したではないか。

そういえば、ネスにはそのことを伝えていなかった。

もしや~キツネだもの、森をうろつくのは自然な行動だ。

けれど、ここは普通の森ではない。

何かがあっても可笑しくは無い、BD族の森なのだから。


クリスが少し考え込んでいる間に、ホールを満たす曲はテレマン:協奏曲ホ短調に代わっていた。


リコーダーとフルート、各ソリストが掛け合う珍しい一曲といわれている。

「フラウト・トラヴェルソ、君が得意とする楽器だよね。」

そう、アスランに言葉を掛けられて、『あっ・・』と顔を上げた。

クリスは眉を顰めて、彼を見つめる。

彼らから、掛けられる幾つかの不可解な言葉。

それは、一般人が知るはずのない情報・協会資料には記載されていないはず~

を彼らが知っている~ということ。

ギュッと膝の上の紅を握り締めた。

「殿下、協会のホームページを閲覧されるのは構いませんが。」

と、そこでいったん言葉を切った。

彼に・この世界において、人間社会の常識が・マナーが通用するのだろうか?

「所属するガーディアンの個人情報は公開していないはずです。」

私・自身についても、スコットランドを旅した事・所持する武器・身の回り品等を含めて、

非公開になっている。

「極めて少数の幹部のみが特殊・パスワードにて閲覧可能なのですよ。

それ以外の者には、ハッキング・所謂~不正アクセスを行わなければ知り得ない情報です、が?」

クリスの硬い声と表情に、その場に居る者達はシンとなった。


「ああ、そうだったのかい。あれが、非公開だとはねえ。残念だなあ。」

マルセルはのんびりとした声で、笑顔を見せながら自分のカップを持ち上げた。

「ふん、人間がどんなガードを取り入れているか知らないよ。

だけど僕達にしてみれば、どれも不完全なセキュリテイ・システムだと言えるね。

まあ、人間社会には全く関心ないけどさ。」

ファタミにとって、人間など~見下して当然な存在らしい。

「まあ、所詮は人間が作る物ですもの。仕方有りませんわ。」

ナタリは哀れみの表情を浮かべて横目でクリスをチラリと見た。


さすがに、ガーデイアンとして常々冷静に行動する事を求められているクリスでも~

少々、いや・・かなりムカついた!

ここの者達~特に王族~に人間界のコモンセンスを強調したところで、意味は無い。

ただ、苦痛の5日間が始まったことには、間違いなさそう。

ここで、ため息をついてはいられない。

なんとか、この場を切り抜けて、急いで森へ行く方法を考えないと。

クリスは王族各人の顔を見回しながら、頭の中であれこれと退出の言葉を探し始めた。

すると、苦しの表情に気付いたのか

「どうやら彼女は、お疲れの様子だね。そろそろ、部屋へ案内するとしよう。」

アスランはそう言って、席を立った。

「ええっ?  兄様、自らですか?」

ファタミが目を丸くした。

「人間なぞに、兄様が手を煩わせることはありません。

5人も妃候補の侍女達がいるでは有りませんか。

案内や世話等は彼女らにさせれば良いのです。」

「ああ、そうだな。そのうち、そうさせよう。」

アスランは軽く微笑んで片手を挙げ、小ホールから続く3つの通路の一つへと進んだ。

多分他の通路はそれぞれの殿下たちの居室へと続いているのだろう。

当然、守人・エディルもアスランの後に従う。このとき、エディルはクリスに視線を移し、

ついて来るよう目で促した。


5人の妃候補って。さすが・・皇子殿下。

後宮・大奥・ハーレム~人間の歴史上存在したものが、ここにもあるのかな。

もしかして、さっきお茶を運んできた女子生徒が、その一人かもしれない。

アスランが案内してくれたのはクリスが滞在する客室と、その向いにある彼の居室だった。

居室に招き入れられて、目にしたもの。それは・・花に囲まれた書斎・・?

同時にむせ返るようなバラの香り。

つるバラが壁一面を蔦って天井近くまで伸びている。

机周り、書棚・壁際には大小・高低様々なテラコッタが置かれ、

そこには色とりどりに大輪のバラが花開かせていた。


ステンドグラスの大きな窓から入る陽の光に包まれて・・まるで薔薇園そのもの。

呆気に取られて部屋を見回す。

「君の客室はここに比べて、シンプルすぎるかもしれないけれどね。」

アスランは彼女の表情を楽しんでいるかのようだ。

「これらの薔薇は皆、僕が作り出したものだよ。」

クリスは怪訝そうに彼を見た。

「それは、趣味ということですか、それともここの特産品として?」

趣味とだけ答えられたら、クリスは関心しただろう。

薔薇~オタク・コレクター・フェチ~権力者にはよくある偏向趣味の用語かもしれないが。

まあ・・花を育てる趣味なら、平和的だよね・・。

ホッとしたことに、彼はクスリと笑い「両方・・と答えておこうか。」と言った。

「じゃあ、エディル頼んだよ。」

彼は守人をその場に残して、奥へと続くドアを開けた。

振り向いて「君に会わせたい者がいるんだ。森にね。」と、クリスを誘った。

確かに、森へ急ぎたいとは思っていたけれど。

これって、タイミングが良すぎないかな。

そこに居る、会わせたい者って・・? 

 住処がそこ~森~ってこと?


奥の部屋は書斎と違い、ただの空間があるだけ。

小さな丸窓が幾つか並んでいるけれども室内は薄暗く、家具も置かれていない。

それどころか、バラの花びらの一つさえそこにはなかった。

なんだか寒々としているな、と思った時

この部屋全体の空気が、冷えすぎているように感じられクリスはブルッと身震いした。

その拍子に、手にする紅がカチリと鳴った。


アスランは部屋の隅に飾られたアラベスク文様のタペストリーの前に進むと、

「これに、見覚えがあるかい?」とその図柄を指し示した。


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