VS守り人、再び
「殿下は、自分の為に彼らを犠牲にするのですね?」
「ふん、能力を持つ者が持たざる者を利用する。
何がいけないんだ?」
「同じ一族の生徒達ですよ。
それと。
夕べ、彼らにファタミ殿下を襲わせましたね?」
「同族だからこそ、術に掛かりやすいんだよ。
王族に対して崇敬の念を持っているからねぇ。」
「階級が下の生徒は、傷つけても構わないと?」
マルセルはクリスの問いには答えなかった。
ただ、ニヤリと笑みを浮かべて腰の剣を引き抜いた。
サラバンドの曲に載って、メイシェのソプラノが響き渡る。
高い空へと吸い込まれていくみたいに。
マルセルが抜いた剣は長く、柄には色とりどりの宝石がちりばめられ
太陽の輝きを反射していた。
それは、剣先よりも鋭く、まばゆく、
周囲の者達の目に突き刺さる。
クリスは激しい動きに対応できるよう、
両足首のウェイト・バンドを取り外す。
重さは各500g。
これでフットワークは、かなり軽くなるはず。
それから、スカートの両サイドファスナーを下ろし、
両太腿に装着したクナイを再び手にした。
その様子を見て、ネスがヒゲをピクリと震わせる。
{ほう~、かなり本気が入ってんなぁ。}
{うん・・彼のオーラは、なんか不気味だから。きっと手強い。}
{そいじゃあ、リスト・バンドも外した方が良くないか?}
{ううん・・様子見ね。剣を受けることも想定しておく。
どれ程の腕前かが、分からないもの。}
一瞬、風が吹いたのかと思った。
近くを、何かが動いてマルセルの姿を隠したのを。
目の前の、カイルを見てクリスは首を横に振った。
「カイル、貴方も演武に参加するのかしら?」
「いや、そうじゃない。俺たち一族は契約を結んでいるから。
BD族・王族を護るという事が義務なんだ。
君から、マルセル殿下を護る。ただし、攻撃はしない。」
「種族間の取り決めについては、分からないけれど。
はっきり言って、いい?
闘いを長引かせないでくれる?」
クリスは、イライラしていた。
どうして、こう、さっさと終わらせてくれないんだろ?
{ネス、銀狼は水が苦手かしら?}
{おいおい、まさか俺に相手しろって言うんじゃぁないだろうな?}
{だって、ラスボス倒そうとしたら、トラップって有り?}
{そりゃあ・・2ボスってのは、有りだろうよ。}
{全面クリアしないと、実生活へ帰れないのよ!!}
{ああ、まあ・・大丈夫だ。
アスラン殿下様は約束を守るだろうさ。
きっと、ヘリを待機させているはずだぜ。}
{へえ~いつから信頼関係を築くほど仲良しになったのかなぁ?}
{ええ・・? ううん・・いや、多分。ちゃんと帰れる・・と、思うぞ。}
{フン・・どうだか!! 私は期待していないわよ。彼には!
でも、絶対に帰るんだから。
だって、高校初の定期テストを欠席するわけにはいかないもの。
好き好んで、茨の道は歩みたくない!}
そう言うと、クリスは目の前のカイルに対して、
素早く一歩を踏み込んだ。
武器は最初から攻撃する道具として作り出されたのだろうか?
ひょっとしたら、弱い人間が身を守るために考え出されたのでは?
いや、それよりも、卑しき悪魔や精霊を鎮めるために
神に捧げられたモノが始まりだったのかも知れない。
護る者同士。
立場は違うけれど、対峙しなければならない時もある。
2人が交差させる剣は、『カン!』と乾いた音を立てた。
カイルとは花畑で闘ったばかりだ。
あの時もそうだったけれど・・。
クリスから仕掛けることは、普段の任務では一切無い。
ガーディアンは、謂わば
カイルのような守人と同じような立場なのだから。
けれど、今は・・
そんなことを言ってはいられない。
とにかく肝心要の相手と手合わせをしないことには。
勝敗を決めなければ、終わらないのだ!
{気分が高揚するというより・・どうよ、この選曲。}
ネスは、尻尾をぱたぱたさせていた。
{オッフェンバックの天国と地獄~でしょ? 軽快なテンポよね。}
「おいおい、運動会じゃないんだぜ。}
{そうね、ひと昔前はおやつの曲だったらしいわよ。}
{スコーンか?}
{ううん・・カステラ、だったと思う。}
{どっちでもいいが。いつまで、ウオームアップをしているんだ?}
{まあね、そろそろ体がこなれてきたかも?}
そう言うと、クリスは左手のクナイを地面に落とした。
カイルが振り下ろした剣を受ける素振りを見せて。
『ズッ!!』
と、肉に食い込む剣の音がしてカイルが一瞬ひるんだ。
「な・・なんだ?」と言うように、怪訝な顔を剣先に向けた。
人間の手首にめり込んだなんて。
そんなはず・・?
実際はリスト・バンドで剣を受けたのだけれど。
どうやら、彼はあの時の
初日でのバトル~ライルとの一戦をよく見ていなかったらしい。
まともに肌で受けるなんて有り得ない~と分かるはずだから。
クリスの顔に視線を移したカイルに、ニッコリと微笑む。
「ごめんね。ライルにも同じ手を使ったの。だって、きりがないから!」
そう言うと、彼の肩を思いきり蹴り上げた。
これも、きのう・花畑の時と同じ。
不意を突かれて、彼は剣を手放してしまう。
素早くその剣を手にしたクリスが、剣の柄でカイルの後頭部を打った。
「悪いけど。ちょっと、眠ってて。」
気絶した守人を済まなそうに見てから、マルセルに対して体を向けた。
「お待たせ致しました。では、本題に入りましょうか、殿下。」
天国と地獄~どうしてこのネーミングなんだ?
闘いとは、合わないだろ。
なんだか、明るすぎる。
ピエールがフィールドに着いた時、ちょうど守人カイルが
倒れたところだった。
「ああ~何てことだ!」
近くに待機している評議委員のメンバーに指示を出しながら、
自らもフィールド内へと急ぐ。
「守人をフィールド外へ連れ出すから、2,3人呼んでくれ!!」
仰向けに倒れているカイルは完全に気を失っている。
ピエールは彼の側に立つクリスをチラリと見た。
「これを預かってくれる?」
「ああ・・。」
差し出された守り人の剣を受け取りながら、カイルに目を移す。
クリスは空いた手で、地面に落ちた(わざと落とした)自分のクナイを拾いあげる。
「仕方のないことだけれど、彼は巻き込まれるべきでは無かったわね。」
クリスは眉をひそめ、同情を表した。
ピエールは評議委員のメンバーと共にカイルを抱えて
演武者・2人から離れた。
まあ、カイルのことだ。
鍛えられた守人なんだから、直ぐに気が付くだろう。
それまで、彼の剣を預かっていよう。
長い剣はずしりと重く、柄には何の装飾もなかった。
そのシンプルさは、マルセルが手にした剣とは対照的だ。
持ち手の性格を表しているのだろうか。
「ああ、そろそろ。いいだろうか?
僕の歌姫・ディーヴァにも歌わせたい。」
マルセルはカイルがフィールド外へと連れ出されるのを待って、
微笑んだ。
「歌姫・・ディーヴァ?」
彼は後ろを振り返ると、居並ぶ女子生徒の一人に声を掛けた。
「やあ、待たせたね。イライザ。やっと、君の番が来たよ。」
女子生徒が婉然と笑みを浮かべて
一歩前へと進み出る。
{彼女はあの時の・・?}
{広場で、賛美歌を歌っていたな。確か・・}
{術に操られた、イライザよね。
歌で貴族連中にファタミ殿下を襲わせたわ。}
{うう、嫌な予感がするぜ。}
{私もよ。・・ねえ、歌い始めると同時に
彼女に集中豪雨を降らせるって、どう?}
{おお。グッド・アイディアだぞ、それは!}
ネスが立ち上がるのを見て、マルセルが満足そうに頷く。
「心に染みいる、と人間は言うのかな?」
彼は輝く剣をスッと頭上に掲げ、一振りした。
それを合図に第2皇子殿下専属のオーケストラが演奏を始め、
続いてイライザのソプラノが加わる。
ところが歌うのは彼女・一人ではなく、
マルセルの後ろに控える女生徒達全員だった。
{おいおい、Celtic Womanより、メンバーが多いぜ。}
{ええ・・。この曲は・・?}
{バッハだ。Jesu joy of Man's Desiring~主よ、人の望みの喜びよ}
{ああ・・やはり、賛美歌ね?}
{う~ん・・仏教やイスラム教も有るってのに。
どうしてキリスト教なんだ?」
{ええ? お経やコーランは、賛美歌って言う?}
{そうじゃない!! なんで、キリスト教に因縁が有るのかって事だよ!}
{そうねぇ、歴史的にヨーロッパとの関わりが深いんじゃないの?
東洋では、あんまり吸血族の話って聞かないし。
中東のことは良く知らないけれど・・}
{ふふん・・まあいいさ。ピンポイントじゃなくて、
あの辺全体を土砂降りにすれば良いんだろ?}
言い終わらないうちに、ネスは天上へと水しぶきを上げていた。




