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出生の秘密

陽が落ちると、闇は気付かないうちに辺りを覆ってしまう。

絹地で出来た、卓上ランプシェードには柔らかな灯りが点っていた。


「あの場所・ヘレテを 大事にされているのですね。」

「ああ・・そうだよ。なぜだか、分かるかい?」

アスランはそう言うと、クリスに顔を向けた。

「それは・・多分、同じ一族の人たちだから。

殿下としては、ワケ隔てなく接していると?」

「ふふ・・なるほど、優等生の答えだな。」

「はあ・・・。」

「アンバーに会って、どう思った?」

「ええ・・っと。そうですね、名前の通り、髪も瞳も琥珀色で・・

皮膚は陽に焼けていました。

そうして・・ああ、そうだ!

アスラン、貴方に・・良く似ていた!!」

長い時間をアンバーと過ごしたわけではないから。

彼の性格的なことまでは分からない。

それに・・外見上は、ピエールとも似ているような・・?

でも、アンバーとピエールって。

性格はともかく・・色々と違い過ぎるし。

う~ん・・?


「アンバーは、僕の弟だよ。」

「そうですか・・似ていますものね・・ええっ!?」

クリスは絶句して

アスランが冗談を言っているのかと、彼を凝視した。

確かに、2人は似ている。

でも、アスランよりは少し年上の青年に見えたし。

兄なら・・まだ納得できるかな。

いや・・それも、おかしいような。

第一・・アンバーは人間で、髪も瞳の色も違う。

「ああ・・混乱させてしまったね。

でも、事実だよ。

3人の母は同一人物だから。」

「・・?3人ですか?・・まさか、ピエール?」

「そう、僕らは兄弟・三つ子なんだよ。」

「三つ子?でも、皆さん全員が王族ではない・・?」

「ああ・・母は、ハイ・ブリッドだったからね。

4分の一・クゥォーターさ。」

「貴族の方ではない、と?」

「そう。それに、先に正妃がいたんだ。

マルセルの母君がね。

父王と母は偶然街で出会い、父は母を夫人にした。

そうして産まれたのが、僕ら3人さ。

その中で、僕だけが王族の持つ〈力〉を受け継いだ。

ピエールは外見だけ。

アンバーは・・君が見た通り、完璧な人間だ。」

「そんな・・ことって。」

同じ両親を持ちながら、彼らは随分と違う生を歩いている。

いや、まるきり別々だ。

何もかも!

「あの・・。殿下・・アスラン。

貴方を

純粋な王族の方だと思っていました。」

「そうだね、確かに多くの者がそう思っているよ。

ただ、純粋な血を持つ皇子は。

実のところ、マルセルとファタミの2人だけなんだ。」

予期せぬ告白に驚くクリスの瞳を、彼は捉えて離さない。

額に鮮やかなヴァイオレット・ブルーの薔薇。

金色がかった、紅い瞳。

どう見ても、純粋な血を持つ皇子だとしか見えない。

「僕はね、選ばれたんだよ。

産まれた皇子達の中から、第一皇子に。

君も会っただろう?

バジルスにさ。」

「ああ・・あの泉の主。」

「そう、かのモノが選ぶことになっているんだ。

次代の王をね。」

バジルスが?

何故?

どう見ても・・あの縦長の瞳は

BD族とは縁もゆかりも無さそうなんだけど。


「済まないね。

混乱させてしまったようだ。

少し、整理して話そう。」

戸惑うクリスに、アスランが微笑した。


まどろみからは、とっくに覚めているはずなのに。

彼の話は、どこか夢物語に聞こえてしまう。

語られる内容は真実なのだろうけれど。

あまりにも、住む世界が違うせいかもしれない。

それとも、時に長く生きる種族だから。

いつしか、心に澱を積み重ねてしまうのだろうか。


「人間の血が少しでも混じると、そう長くは生きられない。

ほぼ人間と同じか、せいぜいプラス50年ほどなんだ。

そこで、父王はサプリを使うことを考えたのさ。」


アスランは無表情だけれども口調は穏やかだった。

サプリと聞いて、クリスの頭には紫色のタブレットが浮かんだ。

「ファタミ殿下が洞窟の部屋で服用した錠剤のことですか?」

「ああ、そうか。君は見たんだね。

そう、あれは、僕らの生命維持に必要な物なんだよ。」

「・・生命維持?」

「ああ、時代が進むにつれ・・

一族の祖先が、人間と敵対するのは不都合だと考えたらしい。

それで、血を直接・・その・・人間から

摂取しないでも生きられる術を

長年に亘って研究してきたのさ。」

「それで、あのサプリを・・?」

「うん、ただ母が服用したのは、まだ実用前の試作品だった。

当時は、純粋なBD族専用のサプリは既に開発されていたんだけれど。

ハイブリッド~人間の血が混じった者達用のサプリは

後回しになっていたから。

彼らが長く生きられることより

人間の血に対する飢えや渇きを抑えることの方が重要だった。

そんな実用目前のサプリを服用した母から産まれたのが

僕ら3人だったのさ。

多胎は純粋なBD族では決して有り得ない事。

能力が分散されるから、と言われている。

そうならないよう妊婦が自らコントロールするんだ。

貴族の娘達であれば、当然出来ること。

その力を持ち合わせているんだよ。」

「力を持っていない、お母様は・・

危険なサプリを服用されたんですね。」

「ああ・・結局、僕らの誕生と引き換えに

母は亡くなってしまったけれど。

どちらにしろ、有効なサプリを開発するまでには時間がかかったから。

今、生きていると言う確証はない・・が。」

サプリを開発したことにより、人間を襲わなくても生きていける。

長生きを継続する事も。

確かに、人間側にとっては良い事だ。

ありがたいことに、襲われる~脅威がなくなったのだから!!


「それで、今ではハイブリッドの方々にも

サプリが普及しているのですね?」

「ああ。全ての、一族の皆が公平に摂取出来るようになっているよ。」

そうか、それで・・アンバーは

アスランとそれほど違わない年齢に見えるんだ。

ところで、彼らの本当の年齢は・・?

一体、何歳なんだろう?


「3人が、ご兄弟である事を公表されてはいないんですね。」

「それは、一部の王族しか知らないことだよ。

一族全体が混乱するからね。

王の夫人が多胎児を出産し

純粋な血とハイブリッドに人間が誕生した~となるとね。

ただ、正妃の子供であるマルセルが半年先に生まれていたから。

僕ら3人が注目される事は無かったそうだ。

なにせ当時は、祝賀ムード一色だったらしい。

ところが、同一年に産まれた僕ら4人が

生後揃ってバジルスの前に面<おもて>見せをした時

かのモノは、正妃が生んだマルセルではなく

僕を時代の王に選んだのさ。」

あまり嬉しくもなさそうに言うアスランを

クリスは不思議に思った。

どんな集団であれ、その国や一族の王に選ばれることは

誇らしい気持ちになるものではないのだろうか?


時に予期せず時代の頂点に立ってしまうことがある。

歴史上、それは決して珍しくはない。

本当の父親は大商人:呂不韋だったと言われる。

〈中国最初の皇帝を名乗った秦の始皇帝】


平安時代、兄2人が流行り病で亡くなったので

当主を継いだ藤原道長。

彼のお陰で入内した娘達と 天皇になれた孫達・・。


四男なのに紀州藩主となり後に名君と謳われた八代将軍・徳川吉宗。

他にも似た様な偶然は有りそうだ。


人生はどうなるのか予想できない。

その人が持つ強運でもって、その後が吉となるのか凶と出るか。

我が物になった世を、どう動かすのか。

それは国の存亡に関わってくる。

~強い指導力で道を示す事が出来るのか。

全てにおいて力量が試されるものだろう。


「貴方は、選ばれたくなかったのですか?」

クリスの問いに、アスランは驚いたように顔を上げた。

「なんだって?・・ああ、そうじゃあないよ。

ただ、誰がなってもいいわけじゃないが。

本来的に言うと、マルセルが妥当だからね。

権利と言う点では、彼にも有るんだ。」

「権利って・・もう、後継者は決定しているのに?」

「ああ、つまり継承者権ってことなんだ。

僕に何かあれば、直ぐに代われる。」

クリスはアスランの瞳を見つめたまま沈黙をした。

「ただ彼がそれを望む以上に

正妃とその一族が切望しているのだろうな。」

確かにどの時代、何処の国にも権力争いはある。

ここ、人外の王室においてもそれは変わらないらしい。

「それで、何故ファタミ殿下が狙われるのでしょう?」

そうだ、実際はアスランではなく

彼が危険に遭っているのだから。

「ファタミは・・

立場的に弱いからね。

後ろ盾となる母方の貴族は辺境の小貴族なんだ。

潰しやすい所。そう見られているに違いない。」

「そんな・・。

ファタミ殿下はご存知ですか?

守人がついているとはいえ、気をつけないと。」

今日の事もある。

守人の動きを封じられて

  彼は海へと落とされたのだから!


「表立って、警護の者を増やすわけには行かない。

それでは、他の者達に不信感を与える事になるからね。

王族内の継承問題から、色々な問題に発展しかねないし。」

「ですが・・。」

「だから。

明日の演武者として、君を指名するんだ。

今夜の舞踏会で僕とラストダンスを踊るという事は

それを参加者達に知らしめるためさ。」

全く、話が見えない!!

なぜ・・それとファタミ殿下の安全が関係するのだろうか?

「君には、心底守りたいものがあるかい?」

突然、そんなことを言われてドキリとした。

「守りたいモノ・・ですか?」


<俺は命を懸けたいモノのを見つけた。

正当なる彼らの王国を創り、それを守ってやりたいんだ!>

かっての兄・クラウドが目を輝かせて言った言葉が耳に甦る。

一瞬目を閉じたクリスは、真っ直ぐにアスランを見た。

「何一つ、今の私には望みも無ければ、心残りも有りません。

だから、一個人としてこの仕事が出来るのでしょう。」

薄く微笑みさえ浮かべ、そう言い切ったクリスを

金色がかった紅い瞳が見つめた。


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