箱ティッシュの反乱
深夜二時、山田萩はいつものようにテレビショッピングを眺めていた。この時間になると彼はネットゲームをやめて寝る準備にはいる。その寝る準備のひとつとしてテレビショッピングをぼおっと眺めるのである。彼が毎日行うルーティーンのひとつであり、単調なテレビショッピングを眺めることで頭が空っぽになり眠りに入りやすくなるのだ。
「なんと! 3万円も値引きして、今なら29800円!」
「29800円! 半額以下になっちゃってるじゃないですか!」
鼻を噛みたくなったので横にあった箱ティッシュに手を伸ばそうとした。しかし、その手に触れたものはテレビのリモコンであった。
(あれ、どこにやったっけ?)
辺りを探してもその部屋にあるべきそれは見つからなかった。彼は仕方なく、鼻をすすってテレビを見続けることにした。
「えー! ほんとですか? 半額以下になったのに無料でこんな高級なものがついてくるなんて」
「それがほんとなんですよー。テレビをみている皆さんだけの特別セールです。」
「これは今買うしかないですねー! すごいことですよ____」
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「そうなんです! ビックリしましたよ。こんなに滑らかな肌になるなんて」
はっと気がつくと次の商品の紹介が始まっていた。いつの間にか寝ようとしていたみたいだ。
(よし、もうそろそろ寝るかな……)
テレビを消そうとして横のリモコンをつかもうとした。しかし今度はリモコンが姿を消していた。先ほどそこにあったリモコンが。辺りを見回してもこれまた見つからない。
(あれ? なんでないんだ? 嘘だろ。どういうことだ?)
動揺によって先ほどまでの頭の酔いは醒め、居心地が悪い気がした。
(っていうか今何時なんだよ)
そう思ってスマホをいれていたはずのポケットに手を突っ込んだ。しかしそれもまた無くなっていた。
「なんなんだよ。まったく……」
そう呟きながらオロオロしていると、突然、テレビが砂あらしとなり、不快な轟音を立てた。
(うわ! えっ! なんだよこれ)
突然のことに驚き、怖さを隠せなくなる。もしかすると霊的なものがいるのか。怖くなってゆっくりと後ろを振り返ってみた__。しかし見ることができるものはいつもの部屋の姿である。彼は少し安堵を覚えた。
その時だった。プツン、とテレビから低音が聞こえてきた。
(え!)
見てみると、砂あらしが消えていた。代わりに写っているものは、なんと目と口のついた箱ティッシュのキャラクターだった。
さらに画面の端からリモコンとスマートフォンがぴょんぴょん跳び跳ねて中央までやって来た。
「おほん。我らは、君の我らに対する扱いに対して怒り、我らの職務を放棄することにした! 君は我らを適当に投げやって壊れてもいいかのように扱う。そのようなところに我らは怒り、不当だと感じてこのように君に伝えているのだ」
箱ティッシュは器用に体をくねらせ、目や口の表情を変え、そのようにいい放った。
(えっ、えっ、とりあえず謝るか?)
「あの、す、すみませんでした……」
「本当に反省しておるのか」
「ええ、反省……してます……」
箱ティッシュとリモコンとスマートフォンはこれで許すかどうかやら何やらの話し合いを始めたみたいようである。その間彼は急激な眠気に襲われた。まるで現在起こっていることが夢のように__。
「よし、君がもう我らをぞんざいに扱わず、大切に使っていくものだと約束してくれたら許してあげよう。どうだ、もうしないか?」
「はい……」
「では、これにておさらばだ。我々は持ち場へ戻る」
そう言ったきりテレビはまたプツンと音を出して、その後、いつもと変わらないテレビショッピングがそれから流れ始めた。
彼はもう眠気に耐えきれず、箱ティッシュたちのことを考える間もなく、テーブルに突っ伏して、寝た。
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ゆっくりと目が醒めた。つけっぱなしの人工の光がまぶしい。どうやらあのまま寝てしまっていたようだ。目の前には堂々とたたずまう箱ティッシュがあった。
(ティッシュ…………。あれどこから夢だったんだよ)
体を起こすと、スマホもリモコンもテーブルの上にある。
(すごい夢だったな。なんか)
テレビの音が微かに聞こえている。それが朝のニュースの声だとわかった。
彼はその夢を朧気に思い出していた。
__我々は職務を……。ぞんざいに扱い……。
思い出していくと妙にイライラとむかつくものがあった。
(お前らだけじゃねえだろ。しかも俺だけじゃねえだろ……。大体お前らは道具なんだ、どう使おうと人間の勝手だろ……)
テレビの音が煩い。雑音が耳障りで吐き気を催して来るようだ……。
彼はそこにあったリモコンを手に取り、テレビの電源を消した。その後、彼は壁に向かって手にあるそれを思い切り投げた。リモコンは壁にぶつかって、床に落ちた。