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5月

僕が嫌いになった5月。



彼女が慣れてきた5月。


「夏ってなんで暑いんでしょうね~」


及川が唐突に言った。


「義務教育の理科で習ったろ」


僕はそっけなく返した


「そういうことを言ってるんじゃないんですよ」


ならどういうことを言っているのだろう。


「先輩はほんとに図書委員なんですか~?」


心外だ、君より2年は長くやっている、と思ったが口には出さずにいた。


「もっと文学的というか、会話というものを楽しみましょうよ」


「ならどう返したらよかったんだい?」


「ん~・・・」


一ヶ月、数にして4回程度だがこの及川栞と一緒に委員の仕事をして分かったことがある。


まず一つはこいつはやたら喋る、僕が適当な返事をしていても構わずに話しかけてくる。


二つ目は仕事の覚えが良いということ。


とは言っても図書委員の主たる仕事は貸出・返却の作業くらいのものだが、たまに新しく入った図書にバーコードを貼り付ける作業なんかも一度でほぼほぼ完ぺきにこなしていく。


「例えば、『太陽が僕らをより一層愛し欲するからさ』とか?」


「君の中での僕の人物像に非常に興味が湧く回答だね」


僕は興味のないことをさも興味があるような口調で嘯く。


「とてもそうには思えない言い方ですね~」


少しムッとした様子の彼女に驚く。


「良くわかったね、まったく興味が無いって」


「私、先輩と違っていろんな人とおしゃべりするんで、嘘とか通じないですからね~」


嫌味だと僕でもわかったのでとりあえず読書にいそしむかな。


そう思い僕は本を開いた。


「そういうとこですよ~」


どういうとこだよ、と心の中でツッコミながら僕の意識から彼女の声はフェードアウトしていった。




―――――――――――――――――――――――――――


「先輩って数学得意ですか?」


次の水曜日、出会い頭に彼女は言った。


「まぁどちらかといえば。なんで?」


ここで嫌な予感を察知していたのは本能の働きだろう。


「もうすぐ中間試験があるじゃないですか~」


嫌な予感が増す、上手い言い訳を考えよう。


「私数学苦手なんで~」


そうだな、勉強を教える日には予定が入ってることにしよう。


「数学教えてくれませんか?」


「生憎その日は予定があるんだ」


「どの日ですか」


・・・予感はしすぎるもんじゃない。


「教えてくれるんですよね?」


笑顔が怖い、といった表現はまさにこの瞬間に理解した。


「・・・生憎その日は予定が」


「先輩。」


笑顔で迫ってくる後輩が怖い。


「じゃあ、今日の放課後に、よろしくお願いしま~す。」


「生憎その日は予定が・・・」


「天丼は二回まででお願いしま~す。」


・・・地獄だ。




結論からいえば彼女は本当に数学が苦手だった。


よくこの高校に受かったな、と思うほどに。


「とりあえず計算の順序は分かったな?」


「ルイジョウヲサキニケイサン」


「とりあえず問題集のここからここまでを明日までにやってこい」


「・・・はぁい。」


「それで間違えたところを次は重点的にやるぞ」


「それって明日も勉強教えてくれるってことですか?」


しまった、と思った。


自分でも気づかないうちに彼女に勉強を教えることにのめりすぎてしまっていたようだ。


「じゃあ、明日の放課後も図書室で!」


彼女はとびっきりの笑顔で言い放った。


・・・勘弁してくれ。





夏休みはバイト尽くしでした。

普通自動二輪免許を取りました。

免許を姉に見せたら「なんでそんな不機嫌そうな顔してんの」と言われました。

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