カステラパン
寂れた山沿いの商店街。行く人々は少なく、閑散とている。風は涼しいが日差しは強く照りつける。アスファルトからは、 ゆらゆらと陽炎が立ちこめている。
そこにある古びたパン屋。半世紀以上前は鮮明に青かったであろう看板。店内がよく見えるように貼られたガラスにレトロなカタカナで白く描かれた店の屋号。それらが重なり合い、なんとも言い難い落ち着いた風貌を醸し出す。
そんなパン屋に入ってみた。店内はベージュ色に色褪せ、この店が歩んだ時の長さ、移ろいを感じさせる。冷蔵のショーケースには、生クリームを使ったロールケーキ。そして、ブランデーをふんだんに使ったパウンドケーキ。それらが静物のように、かしこまって置かれている。窓辺側に置かれたパンを選んでみる。気取らない食パンに、ジャム、チョコクリーム、ピーナッツバターがサンドされたもの。近くにある高校の生徒が、昔から下校途中で友達と食べたのであろう。シンプルながらも、今も看板商品となっていた。コールスローがコッペパンに挟まれたサラダサンド、ソフト麺で作られたナポリタンが挟まれたパン。最近のパン屋のように、外はパリッとして粉がふいたパンではない。しっとりとしていて、バターも使いすぎていない。僕の代がギリギリ覚えている懐かしいパンの感じ。たしかに大手の菓子パンに押されてしまったのかもしれない。しかし、最近は懐かしいパン屋に再び注目が集まるのは、なんとも嬉しいものだ。
さて、そんなパンの中からカステラパンを選んでみた。カステラパン?皆さんはそう思われたであろう。そう、パンの中にカステラが入っているのだ。家に帰り食べてみる。カステラはしっかりと甘く、普通のカステラよりもしっとりとしている。ふんだんに卵が使われているのだろう。その周りにはバタークリームが少し塗られていた。外側のパンは甘くなく、小麦粉の風味が効いた上品なパンで、カステラの甘さを殺していない。しっかりと、クリームパンのように、中に入ったカステラを楽しむためのパンであった。恐らく、昔は冷蔵庫がなく、常温でも痛まないカステラを入れたのかもしれない。まだまだ甘いものが少なかった時に嘱望されたパンであったのかもしれない。
しかし、こういったパンがいつまで食べられるか分からない。店番のおばあさんはもう高齢である。マニアの間で再びレトロなパン屋が注目されるのは、全国にあるレトロなパン屋が放つ最後の輝きなのかもしれない。カステラパンも、最近のパン屋ではあまり見かけない。僕にできることは、そこの商品を買い、食べて愛し、感想を残すことだけかもしれない。しかし、レトロなパン屋を愛した人々が多くいるかぎり、そのパン屋が消え去ることはないのである。そう思う今日この頃であった。




