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なすのおひたし
渋くて味のある料理。その名はなすのおひたし。ほろほろとしたなすに生姜醤油でいただくあの味はなんと表現するべきだろう。例えるなら、秋の涼風に颯爽と当たり、キセルをくわえた粋な江戸大工といった渋い味である。
日本酒が好きな人であれば、あのキリッとした辛さを肴になすのおひたしを食らうというのともまた乙なものだろう。江戸大工のような懐の深さを感じさせるというものだ。日本酒だけではない。ビールにも合う。あの麦味とホップの苦さが、なすのおひたしの特になす本来の甘さを引き立ててくれる。それはまるで、明治初期に、宮大工の技術だけでなく、文明開化の音に導かれ、西洋建築の技術を体で叩き込み、立派な西洋式の学校や官庁を建築した江戸大工の適応力と柔軟性と職人魂のような貫禄を感じさせる。
もう秋である。秋なすの美味しい季節だ。嫁にこそ秋なすを食べさせてあげるべきである。揚げなすにするのも良い。麻婆茄子なすにするのもいい。しかし、あの粋で乙ななすのおひたしに、かつお節を振りかけて、食べるのも、また粋なのである。




