閑話 女子会で
いつもと変わらないメンバーでの女子会。場所は、山崎家で行われている。当たり前のように、悠人はハブられている。この事を知れば、納得してくれはするだろうが仲間外れにされた事に少し傷つくだけ。
6年目。
長きに渡る小学校への登校はもう終えようとしている。次に待つのは、中学への扉。
服装、髪型、アクセサリー、ファッションについては完全な自由であり、【個性】が重視されている小学校に対して、中学とは【集団行動】が重視されている。
服装は統一され、校則により個人の過ぎた行動を縛る。周りの様子を見て、波長を合わせる。社会に生きるための、下準備をしていくのである。
とは言ったものの、今のままの悠人で問題ないので、心配はない。
閑話休題。
「これ言うのもあれだけど、増えなかったね」
優菜の発した言葉は全員が頭を縦に振った。
増えなかった、とは文字通り女子会の参加メンバー。汚く言えば、悠人を囲って逃げ場を潰す為の面子が増えなかったということ。
何故なら、夜々達が増えてから2年の間、1人も増えなかったため。
別に増えて欲しい訳ではない。増えなければ、増えないだけ、自分達と過ごす時間が増えるから少ないに越したことはない。けれど、悠人なら増えてもおかしくはないということ。
過去に、100人の女性と結婚をした男性がいる。それが上手くいったかは、定かではないが、悠人なら容易だろう。
何百という女性の顔と名前を覚え、それぞれの好みを知り、文通をし、一人一人に誠実な対応をする悠人なら。というか、悠人が無理なら、他も無理。
そう言えるほどの信用が悠人にはあった。つまり、悠人は嫁の100人居ても円満に過ごせるといっても過言ではない。
しかし、現在、メンバーが増える兆しが全く見えない。
つまり、
「悠人君が、もう増えないようにしているってことかな?」
それは、とても嬉しいことだ
「でも、私はゆーと様とのけっこんはかくじつ」
唐突に、夜々がそう発言して、ボイスレコーダーを取り出した。そして、取り出したボイスレコーダーの再生ボタンを押す。
『ゆーと様、大人になるまでまっててくれる?』
『待つよ、ずっと。夜々ちゃんが大人になっても、その気持ちが変わらないなら、俺はその気持ちに応える。だから、焦る必要はないよ?』
『……わかった』
『俺は、夜々ちゃんに1番の幸せを掴んで欲しい。でも、決めるのは、まだ早過ぎるよ」
言質を取ったとはいえ、夜々の年齢が年齢なので、その場凌ぎと言われているだけといえるだろう。しかし、ませている子供とはいえ、乙女である。悠人の発言は、バッチリ録音されている。
しかも、公開処刑である。
たかが子供と思っていると知らないうちに、酷いことになる良い例。
「流石、我が娘。チャンスを確実に得るとは!」
「えっへん」
栞は、自分の事のように喜び頭を撫でる。夜々も誇らしげな表情で、周りを見る。
周りも温かい表情で夜々を見る。
そして、ボイスレコーダーで、早過ぎるという悠人の発言を聞いて思い出す。子供組は、数年前に里奈から聞いた悠人の独り言を。「皆が決断を出すのは、早過ぎるからまだこのままの関係でいる」と。それは、時が来るまで彼は待ち続けるというものであり、完全な受け身体制。
遠回り過ぎる告白と結論づけた。
悠人としては、他の出会いを見てから判断した方が良い。しかし、彼女達は、悠人以上の出会いを期待するより、悠人と過ごした方が良いのは当たり前。
「じゃあ、私達大人組はどうなるんだろうね〜?」
玲奈の発言により、大人組は悩み始める。
そう、問題はそこ。
前世、今世の合計しても年上である彼女達の告白を彼はどうするのだろうか。
誰かが告白すれば分かるが、する勇気など持たない。後がある子供らと違って自分らには無い。下手に欲張るよりも、今の関係を続けた方が堅実に楽しく過ごせる。
「悠君だし、俺が早過ぎるって言いそうね」
「もしかして、俺がまだ子供だから結婚できないっていう感じ?」
美雨の発言で、容易に想像できてしまった。というか、絶対言う。「その時まで待ってくれますか?」である。普段の受けから、攻めに転じる。
凄く興奮する。
「素敵です」
「リボン、鼻血が出ています。はしたないですよ」
「失礼しました、奥様」
「そうなりますと、恋人通り越して、夫婦ですよね? 少し変では?」
「栞、恋人なんて口やL○NEの一言で終わる関係より、契約によってガッチリ固められて早々に別れられない方が安心するでしょ?」
確かに、と真夏の一言で納得した。
このように、悠人と進展した、という情報は、それぞれが自慢する形で話すことになる。よって、悠人が2人だけだからと話した内容も知ってる。
悠人が明日香を家族のようなものと誤って口走りそうになったことも知ってる。
悠人が真夏や優菜に言っていないこと。エリナ、マリア、夜々、花香、そして栞の婚約者候補(実質、婚約者)と噂されていることも知ってる。
皆、全部知っているのだ。
「ところで、今にーちゃ何してるのかなぁ?」
「位置を確認してみましょう」
男の秘密は晒されているのに乙女達の秘密は多い。
その1、人工衛星まるまる1つ使っての24時間の監視。
その位置情報は、特定の人間にのみ確認できる。当然のように、女子会メンバーはそれに該当している。
「お兄さん、今外にいます。なら、映像で見れますね」
「買い物に行くんでしょうか?」
「そのとおりです、お嬢様。この道のりは、私といつも待ち合わせるスーパーの方向ですので、間違いないかと」
人工衛星を使った超遠距離ストーカー。
人類の叡智をこんなものに使っていいのか。それに、疑問に思うものはいるが、自宅にいても女性に襲われた男。悠人なら、起きてもおかしくないという不運な体質だからだ。
「ゆーと様、いきなりぼーはんうでわならした」
「待って、前に倒れているご老体の方が」
だから、何でドンピシャにそこに居合わせるのか。
幾度となく、吐き出されるため息。この先もずっと無くなることはないだろうと思う彼女達であった。




