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78 最後の年、髪から

 


 時が経ち、男が小学生として学校に通ってから6年目の春がやってきた。


 過ごす最後の年という理由で、思い出作りに関わろうとする者は少なからずいるが、それは低学年のみ。卒業後、変に偏差値が高い学校や、男子校に行くこともなく、他の同級生と同じ浅野中学校にそのまま進学するのだ。


 まだ4年間もあるし平気だろうという心の余裕から、同級生達は、いつも通りに過ごしている。


 よって、男の日常は、ある程度守られている。



 しかし、女子は別の事に不安があった。



「おはよう」



 朝、悠人はクラスメイトへ元気な挨拶をしながら姿を現した。ここまでなら、1年生の時と変わらない行動である。だが、問題なのは、態度ではなく見た目だった。


「きょっ、今日は縦ロールなんだね」

「ん? どうだろうか。髪型色々変えてみるのも面白くなってきてな」

「マリアちゃんにそっくり」


 何処かの同級生の貴族と同じ髪型にしてきたのだ。悠人、初期の女装では、カツラを着用していたため、ショートヘアでごく一般的な男性の髪型をしていた。しかし、それに限界を感じたのか少しずつ髪を伸ばし始めたのだ。


 最初こそ、ロングヘアのままだったが、いつの間にか低学年の子達に、髪を弄られることが多くなった。その子達は、軽いスキンシップのつもりだったが、ずっと弄られていた悠人は思ったのだ。



 同じ髪型だと、バレる危険性があるのでは?



 そう思ったのが吉日。男は、1週間から2週間の頻度で、髪型を変えるようになった。元々、毎朝妹の優菜の髪型をセットしているので、特に苦労はなく行動を移せた。


 それだけだったなら、まだマシなものを、男は更に化粧にも手を出し始めた。坂田ルナに、協力を仰ぎ、化粧についてのレクチャーを受け、外に出る時は軽い化粧をするように身につけた。


 そして、当然の如く、服装も女性もの……とはいえ、スカートを履かなければほぼ全て女装といえるのでどうでもいいだろう。


 比較的に外に出る機会が多いため、周りにバレないようにするのはクオリティを高くしなければならない。しかし、ここまでするものか。


 もしかしたら、あっちの世界へ行ってしまうのではないかという不安が大きくなった。


 元々、女性に対して理解ありすぎてたし、と


「マリア〜」


 今回の髪型は、明らかに橘マリアを意識したもの。それを本人の前で、お披露目。結局、6年生も同じクラスであるから、会うことなど造作もない。


「金が足りません」

「黒がそんなに不服か?」

「私と同じ髪型にしたのならば、色も同じにして欲しかったですよ?」

「……」

「ふふふ、冗談です。とてもお似合いです」

「ありがとう」


 10分休みの間に、行われた会話。その後の授業中、悠人は神妙な顔持ちでノートを取っていた。先程のマリアとの会話を聞いていて、隣の席にいた明日香は、


「染めるの?」

「!?」


 余裕で看破した。

 悠人の思考は、単純だった。


「……どう思う?」

「金髪も良いと思うわ」


 明日香としては、ショートヘアで見たいのだが、それは叶わぬ夢。






「ご機嫌よう、マリア殿。本日も、良い天気だ。日の光が君の美しい姿を照らして、一段と輝いて見えるぞ?」

「なっ!?」


 次の日。マリアの前には、前髪をドリルのようにした奇抜なヘアスタイルをした悠人の姿が。しかも、そのドリルは、リーゼントのように真っ直ぐ伸びている。

 さらに服装も、白いスーツと普段の悠人のファッションから掛け離れたもの。人が見れば、ヨーロッパ系の貴族と間違えられてもおかしくない。


 しかも、調子こいて、普段は言わない口説き文句も出ている。



 皆思った、誰だこいつ。

 なんだ、この何者かが憑依したような感覚!



 悠人の行動は、早かった。明日香との会話後、直ぐに真夏にLI○E。マリアを驚かせたいから金髪に染めてみたいという、嘘偽りない理由をストレートに伝える。

 そして、真夏。我が子の様々な姿を見たいし、素行が悪くなるわけでもない、というか聞いてくる時点で、グレてないのは確実なのでOKを出した。


 悠人、学校帰りに真っ直ぐ美容院へ行き、金髪に。


 何も知らずに、悠人を待っていた優菜は、グレたと嘆いていたが、「スーパー野菜人」「ガンダモフレーム」と髪型で真似た必死なギャグによって、事なきを得た。


 閑話休題。


「悠人様、ですよね?」

「おう。面倒だから口調は戻させてもらうけど、悠人だよ」

「しかし、まぁ、何という」

「まぁ、マリアと同じ縦ロールも良かったんだが、驚かせてやろうと思ってな。アニメで見た髪型を真似てみた」

「お似合いとは言い難いですが、先ほど挨拶した際の口調でしたら、良いと思います」

「やっぱり? 普段の口調だとバランスが悪いよな」

「ふふふ、今度のパーティーでもその髪型でよろしいのでは?」

「今日だけだよ」


 しかし、驚きが優っていた為か、容姿を褒められた事に関しては、マリアはノーリアクション。前髪のドリルに全てを持っていかれていた。


「これこそ、金属性のドリルですね」

「貫通力はこっちが上だな」


 触ってはいけないだろうと思いつつも、いつもは此方を揶揄っている。なら、偶には良いだろうと、マリアは前髪の先端部分に触れる。見た目通り硬いことを実感して、指先で軽く弾く。


「初めてだったから、2時間くらいかけたぞ?」

「なんという無駄な努力」

「それは言うな」


 しかし、悠人はマリアの驚いた顔を見たからお釣りがくるレベルだよと思っている。まぁ、この先この髪型にする機会はないだろうが。


「あっ、そうです。写真を1枚撮らせて頂けますか?」

「良いぞ」

「折角ですから、桜の木を背景にいたしましょう」

「おお、それは良い。行こう行こう」


 周りを置き去りにして、外に向かうマリアと悠人。周りも気がつけば、2人の後ろを綺麗に2列になりながら進む。

 それを見た他クラスは、一体何事と思いつつも、自然と並び最後尾に理由を聞き、納得し、更に後ろに並ぶ者へとその事を告げる。


 そうして、桜の木の下で、可笑しな姿の悠人との写真撮影が始まり、普通に1限の授業は潰れた。


 当然、それぞれの担任の先生は激おこであったが、写真を1枚握らせたら黙った。

 この学校の先生は、賄賂がよく効く。



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