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閑話 乙女の敵は味方

 

「うーん」

「里奈ちゃん、悩み事ですか?」

「ちょっとね、お腹周りに贅肉が」

「あら、ほんと」


 里奈、マリア、明日香のいつものメンバーは、里奈のそこはかとない悩みを聞いていた。当然のごとく、柳田は悠人をストーカーしているため、その場にはいない。


 ゲーマーの彼女。外に出る機会は、あるっちゃあるけど悠人の家、コンビニに行くか程度なので、運動などしていない。

 昔の体力測定では、並以上の成績ではあったが、今では下から数えた方が早いくらいに落ちている。


 そんな情けない彼女ではあるが、乙女の敵である贅肉を気にはするようだ。

 先ほどから、嘲笑うようかのように明日香が脇腹についた贅肉を摘み続けている。


「なんとかしたい!」

「では!」

「嫌だ!」

「あまえないで」


 マリアが出そうとしていた案を聞く前に、却下する里奈。そして、それを咎める明日香。


 苦労せずには痩せないし、減らせない。だが、悠人と一緒にいられるという利点はある。しかし、それはオレオレ詐欺以上に分かりやすい罠。里奈は、簡単に悠人と一緒の時間を捨てる。


 地獄に付き合うつもりはない。


「じゃあ、どうするのですか?」

「うーん」

「木下君、里奈に何とか言ってあげて」

「おい、一体何の話よ?」


 悩むだけで、何も案を出さない里奈に対して、痺れを切らした明日香。最終兵器を連れてきた。

 悩んでいる理由も、元はといえば悠人に嫌われるのではということ。いや、そんな簡単な理由で嫌われるなんてないだろうけども、やっぱり不安になってしまった。


「……」


 悠人は里奈の太ったという話を聞いて、下手に何かを言うことは出来なかった。が、何か言わなければと当たり障りのないことを口にする。


「全然、分からん。本当に太ったのか?」

「嘘じゃないよ。ほら私の贅肉掴んでみて」

「えっ、おっ、うん。分かった」

「ほら」


 脇腹をさし出す里奈に対して、悠人の手は震えていた。まるで、初めて犬を触るような感じで。


「早く、早く」

「じゃかしい、急かすな」


 乙女のアンタッチャブルな場所であるのだから、そう易々と触れることはできない。いや、真夏にちょっかい出された時は、触り返しているのだが、それはやられたからやり返すというその場の勢いでしているので、全く意識していない。

 けれど、今回はそんな事などなく、普通に大切な人のアンタッチャブルを触れるのだ。当然、意識してしまうために、緊張してしまう。


 意を決して、触れる。


(女性の脇腹の肉って、こんなに柔らかいのかっ!?)


 男は、驚愕した。





 好きな人が、自分の脇腹をずっと触り続けている件について。


 今も、一定のリズムで優しく摘んでいる。いや、摘んでいるというより、触れているが正しい。とにかく、痛みを与えないように、壊れ物を扱うように大切に優しく触れている。


 凄くこそばゆいが、嫌ではない。場所が場所ならずっとこのままでも良いと思えた。



 その様子に周りは動揺を隠せなかった。



 贅肉は乙女の敵だ。そう、敵なのだ。

 なのに、周りが求め求め求め続けている1人の男を、確かにその敵が夢中にさせている。


 男は、巨乳好きだ。

 つまり、柔らかいものが好きだ。

 確かに贅肉は柔らかいが、そこまでのものか?


 しかし、そうなのだろう。だって、ずっと触り続けて離れないんだから。


「悠人君」

「……」

「悠人君」

「おっと、確かにあるな。まぁ、脇腹は腹筋もそうだが、体幹トレーニングが効く。ようは、筋トレだな」

「……うん」

「じゃあ、俺図書室に本返しに行くから」


 そう言い去っていく悠人。


 その後、誰もいない所で1人自分の脇腹を摘み、ため息を吐いている悠人。贅肉を触っていた右手を見ていた悠人の写真、映像を柳田が撮らえ、ぽっちゃり好きのタグが追加された。

 また、当然のように「太っちゃった」と迫る者が多数。が、「そんなことないよ」と笑顔で回避する悠人の姿を見かけることが多かったそうな。




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