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76 逃走から闘争に

 



 視察を経て、当日。


 奴、参上、歓声、参加者と握手。


 ゲーム開始。


 奴と他の逃走者は一斉に逃げ始める。予定通りに、視察できなかった隠れ場所を確認。


 使える、使えない、使えない。


 OK把握、休もう。


 奴は、事前に決めていた休憩場所へと向かう。そこは、ある2階建ての屋根の上。


 いつものように、カメラマンさんから何かしら質問されるだろうなと思いながら、空を見上げる。


 本日は快晴、いい天気である。


「此処にいたか!」

「ハンターじゃねぇな。何のようだ?」

「覚悟ぉ!」


 しかし、のんびりするも束の間、1人の男が奴の休憩所に現れ、いきなり攻撃を仕掛ける。それは、右ストレート。奴は、直ぐに立ち上がり、右掌でその拳の勢いを殺さずに受け流す。攻撃を仕掛けた男は、屋根の上という不安定な足場では、受け流した勢いを抑えきれず体勢を崩す。


「危ない」


 奴は、そう一言。しかし、視聴者からしてみれば、今行なった動作には、全く危なげなく手慣れている感じが漂ってきている。


「……」

「……」


 立た上がった男は、構えた。


 奴は思う。

 言っても聞かない奴は、叩くに限る。


 男と奴の緊迫した状態が続き、動かないこと数秒。


 奴は、逃げ出した。屋根の上から! 


 男は逃さんと追いかけた。


「……」


 奴は何も喋らず、語らない。

 男の良心に訴え、説得しようともしない。


 男の目から、聞く気が無い様子が見て取れる。こうなるなら、了承するかは別として、事前に頼むとか、一言欲しいものである。


 しばらく走り、ある広場へと訪れる。


 そこで、奴は構えた。

 男が追いつくと、また構え直す。


「すまない」


 謝るのなら、挑むなと思いながら、奴は男を見据える。


「そうか」

「!?」


 奴は、男の動きを待つのを辞めて、攻めることにした。避けられると思いながらも、相手の力量を図るかのように顔面へと放った右の拳。


「ッ!」


 男は、放った拳を避け、腕を掴み勢いを殺さず背負い投げをする。奴は、投げられる瞬間と同時に飛び、背負い投げに更に勢いをつけた。地面に奴の背がつくはずが、ブリッジをしているような変な体勢で地に足をつけ防ぐ。

 そして、奴は相手が掴んでいる腕を左手で掴み横に回転。男は、逃れることはできず、一緒に回転する。


 数回の回転後、奴は腕十字固めをかけ、男に告げる。


「……どうする?」

「舐めんな」

「!」


 なんと、無理やり男は立ち上がった。

 技をかけた奴も、びっくり。このままだと反撃を喰らいかねないので、直ぐに距離を取る。


「好戦的で嬉しいぞ」

「……」

「シっ!」


 男は左足で中段回し蹴りを放った。その攻撃は、奴の体を捉えた。


「ぐっ!」


 それと同時に男の顔面に衝撃が走り、大きく仰け反った。


 奴は確かに攻撃を喰らった。だが、奴は回し蹴りを腹で受け止めるだけでなく、片足を引き衝撃を抑えていた。そして、そのまま顔面に右手の張り手をお見舞いしていた。


 その隙を逃さない奴ではない。すぐに体勢を立て直そうとする男に追撃の張り手を顔面に放つ。



 今の奴の心境はこうだ。

(やっぱり拳は駄目だよな)

 顔は男の命。しかし、迷うことなく顔面に攻撃を放つ奴の姿は、女性からすれば悪魔の所業である。



「ふざけるな! 拳で来い!」

「……」


 しかし、それに不満なのか。男は、力強く言う。奴は、張り手を拳に変えた。その男の覚悟を無駄にしないために。

 そして、本気で放たれる奴の右コークスクューブロー。狙いは、人の急所である水月。


「ぐぅっ!」


 男の防御をすり抜け、見事狙い通り水月に刺さる。男は前のめりに倒れ、膝をつく。

 奴は、直ぐに取り押さえようと動き出すが、前から人影。そのまま男を放置して逃げ出した。


「待て!」


 しかし、奴は待たない。このゲームは鬼ごっこであり、闘いごっこではないのだから。


 そうして、奴は男と距離を離した。





 数十分後、





 奴は、歩いていた。


 先ほどのことを内心、愚痴を吐きながら、両手をポケットの中に入れて感じ悪ーく歩いていた。


(あの一撃は完全に入っていたし、捕まったろうな)


 そう思いながら、丁字路の道を左へ曲がる。


「しゃあ!」

「にゅ? ぐぅっ!」


 またもや、奇襲。しかも、今度は待ち伏せされていた。


 ハンターではなかったものの、いやハンターの方がまだ良かったかもしれない。先ほどの男は捕まっていなかったのだ。


 男の姿を目視していない奴は避けることは出来なかった。男の放たれた右ストレートは見事、奴の顔面を捉えていた。奴は大きく吹っ飛び、数回地面を転がり、仰向けになった。


「てめぇ……」

「さぁ、第二ラウンドだ」

「……覚悟しな」


 奴は、仰向けの状態から、手を使わずに立ち上がる。そして、低い姿勢で駆け出し、懐に潜り込む。そして、放つボディブロー。だが、一発では終わらない。


 連打、連打、連打連打連打。


 猛攻、相手に隙を与えない。防ぐことしかさせない。こちらのスタミナは、十分にある。じわりじわりと体力を削る。


 男は、一発、一発が重く、速い拳を防ぎ続ける。だというのに、受ければ受けるほど速く、重くなっていく。このままではやばいと距離を取るために、バックステップをしようとするも何故か片足が動かず体勢を崩した。

 見ると、奴が足を踏んでいた。逃さぬように、距離を取られないように。男は地面に背をつけてしまった。そして、奴にマウントポジションを取られた。しかも膝で腕を抑えられ、顔面を防ぐ手段はない。


「……続けるか?」


 奴は、男の首を左手で掴み、右腕を引き、いつでも攻撃を行える状態で問う。


「!」


 しかし、不意に周りを見渡すとハンターが、遠くから迫っていることを確認した。捕まるわけにはいかない奴は、直ぐに逃げ出す。


 またもや、一本取られてしまった男は、次こそはとグラウザーとは別のルートへと逃げ出した。






(……そろそろだ)


 男は、奴を追っていた。

 番組用に支給されていたスマホを頼りに、奴の位置を常に把握して待ち伏せ並びに奇襲を仕掛けていた。


 しかし、真っ向勝負、奇襲、どちらも奴の力と速さに負けた。だが、諦められない。まだ、負けてない。何故ならまだ自分は戦える状態だからだ。

 だから、完膚なきまでに負けたと思えるまでは、負けたとはいえない。


 奴を追い、狭い路地裏へと辿り着く。そして、奴が出てくるであろう場所で待つ。


 位置を確認すると少しずつ、少しずつ一定の速度で動いており、先ほどの奇襲に成功した時と同じく歩いていることと予想。


(グラウザーはあと数秒で路地裏を出る。それを狙う!)


 男は構えた。




 3……2……1……今!




 ……えっ?


 男の予想は外れ、拳は空を切った。


 そして、男は見た。



 四つん這いになり、こちらを見上げている奴の姿を。



 そして、男は意識を失った。




『いつから、逃走から戦闘になったんでしょうか?』

『知りませんよ、そんなこと。しかし、一言あるとするならば……』



『『グラウザー、ちょー強え!!』』





「……案外、不評じゃなかったな」


 番組放送後、観客者が雪崩れ込むように、俺の元へと押し寄せた。放送事故による、文句かと思いきや、楽しかったと言う声が多かった。


 逃げながら、闘い且つ決着をつける。


 1度で2度美味しいというのだ。


 また、これを見ていた貴族組も好印象だったらしく、新しい刺激をありがとうと言われた。



 絶対、また闘うことになりそう。



 あと、闘った相手からも訴えはなく、逆に感謝の手紙が送られてきた。また、相手して欲しいと書かれていたが丁重にお断りしたい。



 そして、



「悠人」

「はい」

「良い動きでした」

「あざっす!」



 皆からは特にお咎めなしであった。


 そして、後日悟君とする遊びに闘いごっこが追加されたことは言うまでもない。



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