7 ドレスの準備
さて今日は橘さんのママさんが開く社交パーティに行く日だ。てか社交パーティーとかそういうの参加したことないからよくわからないってのが今の俺の現状。本当にどうしよう。橘さんが言うには、
「お迎えいたしますので待っていてください。後ドレスの方もこちらの方で用意しておりますので大丈夫です」
ということらしい。まぁ一応女装セットは持って行くけどな。
そういや真夏と優菜に今日のこと言ったけど、
「悠君のことだから言っても聞かないんでしょ?行って来なさい」
「にーちゃは私が反対しても聞かないから諦める!だからそんなことより風呂に入ろう!」
と普通に納得してくれたしな。
優菜は昨日から友達の家に泊まりに行っている。今日の夜に帰ってくるそうだ。真夏も仕事で朝早くから出て行ったので今は俺1人。とりあえず忘れ物がないか確認してる。
すると、
ピンポーン!
とインターホンが鳴った。
玄関から確認して見ると橘さんがいたので直ぐに出る。
「迎えに来てくれてありがとな」
「いえいえ私が誘ったんですから。ではこちらにどうぞ」
やっぱり貴族は黒のリムジンですか。やべぇ胃が痛くなってきた。とりあえず乗り込むがやはりリムジン。VIP席です。薄い大型テレビもあれば、小型冷蔵庫、シャンデリア、そしてメイドさんが1人。ソファなんてあまりの柔らかさに1回立ち上がったし。
「では行きましょう」
俺はこの空気でどこか遠くへ逝きそうなんですけど。
「リムジンに乗るのは初めてですか?」
「そうだな、初めてだ」
「そうなんですか。殿方なら1度くらい乗ったことあると思いましたけど」
「いや、リムジンって長いじゃん? だから事故りやすいから怖くてな」
「ふふ、確かに。うちも何回かリムジンに小傷がついたことがありました。そうよねリボン?」
「えぇ!? 思い出させないでください!! あの時は心臓に悪かったんですから!!」
「大変そうだな」
「私の専属メイドですからね」
なるほど、メイドか。でもメイド服じゃなくて、執事服なんだな。
「えっと、南リボンです。よろしくお願いします」
「木下悠人です。よろしくお願いします」
「はい!」
「ところで、悠人様そのバックは? 今日は荷物いらないと言っておいたんですけど」
「ん? これは俺の女装セットだ」
「「え?」」
目が点になる橘さんと南さん。まぁ確かに驚くのも無理はない。
「俺はよく外に出るんでな。これをつけて周りの女性に男とバレないようにするためなんだ。まぁつけるのはカツラと香水だけだが」
「そうなんですか。つけてもらっていいですか?」
「いいぞ」
俺はカツラをつける。香水はいらないな。
「どうだ? これが中々バレないんだよ」
「すごいです! もう女性そのものですね!!」
「本当に女の子っぽい」
「ふふふ、だろう? 一応この時は悠ちゃんと呼んでくれ。名前で男とバレては本末転倒なんだ」
「分かりました悠ちゃん」
「いや橘さん今言わなくていいの」
「ふふっ♪」
「あっ、着きましたよ。お嬢様、悠ちゃん」
「南さん貴方もですか」
「あはは」
まぁ、こういうのも悪くないな。
そしてリムジンから降り、目の前を見るするとそこには国会議事堂よりも数倍巨大な建物が。
「……」
俺氏言葉を失う。えっ、嫌だ入りたくない。てか帰りたい。やっぱり俺には敷居が高すぎるって。
「橘さん僕帰りたいです」
「ダメです♪」
「僕マナー知らない」
「気になさらなくて大丈夫です」
「僕一般人です」
「私にとっては大事なお客様です」
「……僕……僕」
「男に二言はないんですよね?」
「僕はo「な • い •ん• で • す • よ • ね?」……はい」
「では行きましょう」
橘さんに手を引かれて俺はその会場の門に足を踏み入れた。
会場に入る前にまず俺はパーティー用のドレスに着替えねばならない。当然俺はドレスの着方を知らない。俺はその事を橘さんに相談すると、
「デザイナーの方がやってくれるので大丈夫です。あっ、もちろん殿方ですので安心して下さい」
それを聞いてホッとする。しかしここまで準備させておいて手土産の1つないのは気が引ける。
「何から何までごめんな」
「いえ、誘ったのは私ですので」
「それでもだ。ありがとな」
「はい!」
「じゃあ俺着替えてくるよ」
「はい、私も失礼しますね」
そうして俺は男性更衣室のフロアに行く。そしてそこに待ち受けていたのは、
「はぁ〜い。貴方が木下悠人くんね? マリア様から色々聞いているわ。私は阪田ルナよろしくね〜」
オカマの方でした。
「そうですか。今日はよろしくお願いします」
「あら? 私のこと毛嫌いしないなんて珍しいわねぇ〜。好感度アップアップ♡」
「趣味は個人の自由ですからね」
「あらありがと。じゃあ早速着替えましょうね。どれがいいか選んでね〜」
「了解です」
とは言ったものの……うんどれも付けたくないし着たくない。
ドレスはどれも輝いていて刺繍も綺麗だから本当に俺が着ていいのか迷う。それが何十着も綺麗にズラーっと並んでいる。
それだけじゃない。
ネックレスなどの装飾品、そして指輪が大量にある。見るだけで匠の技が分かる程細かく設計されている。ダイヤモンドやら、プラチナやらどれも良く磨かれてこちらも綺麗に並べられている。
俺は試しにパールのネックレスを手に取ってみる。その驚く程輝いているパールに俺は見惚れてしまう。
……ふつくしい。
おっと見惚れている場合ではない。俺は着替えねばならないのだ。だが俺にファッションセンスなんて無いに等しい。
橘さんのパートナーとして来ているし彼女に恥はかかせたくない。
やはりここは、
「阪田さんどれが似合うか見繕ってもらえませんか?」
「……あら、どれもダメだった?」
「いや、どれを着ていいか分からんのです」
「ん〜〜、色々試着してもらわないといけないけどいいかしら?」
「いいですよ」
それから俺は阪田さんの着せ替え人形状態となった。着せては脱がせ着せては脱がせとどんどんそのドレス以上に似合う物を持ってきてくれているであろう。
でも阪田さん、
「楽しんでません?」
「え!? ……そっ、そんなことないわよ! 久しぶりにこんなカッコいい子を見繕えるからって興奮してる訳じゃないから!!」
もう口に出してんじゃないっすか。
「……いや別にいいんですけどあまり時間をかけ過ぎるのもと思いまして」
「そっ……そうね! でもどれも似合うから、迷うのよねぇ」
……どうしよう決まらない。
そんな事を思いつつふと部屋の奥に大きなカーテンが閉まっているのが気になった。試着室そのものであるこの部屋におかしいのではと思い、何となく、
「あのカーテンの裏には何があるんですか?」
「え? あ〜〜あれね。見たい?」
そう言われてしまうと気になるので「見たいです」と答える。
そして阪田さんがカーテンを開けるとそこには白いドレス、まぁ言っちゃえばウエディングドレスだった。
「何で隠してるんですか?」
「結婚式あげたい男がいると思う?」
……なるほどな。
「あれね、今の私の最高傑作とも言ってもいいのよ。いつか誰かに着てもらいたいと思っているけど......男はウエディングドレスを見ただけで気を悪くするから」
気分を落としながら悲しい表情で言う阪田さん。思い出しただけであんな顔をしているのだ、それほど酷いことを言われたのだろう。聞いてはいけないことを聞いてしまったな。
……。
「あれって俺のサイズに合いますか?」
「……え?」
「あれが着たいです」
「えっ、本当に?」
「はい」
「そう、ありがとね。確か大丈夫だったわ」
「最高に似合うようにして下さい」
「ええ!任せて!」
めっちゃ目立つだろうけど今回だけだ。しかし生まれて初めて着るドレスがウエディングって斬新だな!
そして俺はウエディングドレスを身に纏う。おまけに軽く化粧をして。
「阪田さん、今日は結婚式じゃないんですよ? ベールは付けなくてもいいんじゃないですか?」
「最高に似合うようにしてるのよ♪」
「ならお願いします」
「あとブーケを持って!! ……あっ、写真を一枚いいかしら?」
「いいですよ! 俺単体のとツーショットを撮りましょう!」
俺結構乗ってきた。
全ての準備が終わって写真を撮り、いよいよ橘さんと合流する。
「今日は本当にありがとね」
「いえ、また機会があったらよろしくお願いします」
「ええ、絶対するわ」
「じゃあ行きますね?」
「私はまだ仕事があるからね〜。またね!」
チュッと投げキッスをしてくる阪田さん。少し古いなと思いながら俺も投げキッス。やってて恥ずかしいがこれもありかなと少し思う。
そして阪田さんと俺は互いに笑い合う。
俺は軽くお辞儀をしてパーティー会場の扉を開けた。