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71 自由な放送

 


 木下悠人が入院する当日、世間はある1つのニュースで賑わっていた。




『どうもこんにちは! 東堂悟です! 今日から動画投稿者として活動を始めました!』




 東堂悟が動画投稿者として活動を始めたこと。

 元々、国民的アイドルとして扱われているが、歌い踊るわけでもない。だが、バラエティ等のテレビ出演により、爆発的にその人気が高まっていた。

 そして、美形、可愛い、ショタ。この三種の神器を携えている彼が初日でチャンネル登録者数が3000万を超え、投稿した動画も再生数5億という数字を叩き出すのは当然であった。


 だが、それだけではない。


 東堂悟には無くてはならない存在がいる。




【狂走者】グラウザー




 ヒーローか、ヴィランか。ゲームのグラウザーと現実のグラウザー。キャラがぶれ過ぎているが、もう知ったことかと開き直る精神は素晴らしいもの。


 一応、東堂悟より男性の人気は圧倒的に多い。


 どんなに金を積もうがメディア出演は完全に拒否。リブシスに凸るのも効果が無くなっている。

 更には、フルマラソンでの記録を境に、挑むための難易度が高くなり、楽園逃走の出演条件を満たしたとしても勝てるかどうか怪しい状況になった。

 というか、フルマラソンを走れることが、スタートラインの時点で、挑もうと思う者が極端に減った。


 事実上、グラウザーを出演させる術を持つのは、東堂悟が拉致るという不思議なことになっている。


 確かに、美形だし、可愛いし、ショタだし。けど、それ以上にグラウザーを呼んでくれる。

 後、グラウザーと過ごしている東堂悟が1番良い笑顔になるから。


 東堂悟に、全てを託されている。


 消えたい奴が、消えないようにするには。


 初日の登録者ブーストは、グラウザーのファン(男)も含まれていた。


 東堂悟のチャンネルは、全ての者の期待が込められたチャンネルとなった。




 しかし、何の前触れもなく唐突な引き篭もり。




 この上なく良い調子で新たな一歩を踏み出したはずが、何故か踏み外していた。


「どうして?」と思う世間。しかし、周りは一つの考えに至る。



 グラウザー、今何やってるん?



 弟分と豪語していた彼が引き篭もる事態となったのに、それを放置して何をしているんだと。

 世間は憤慨した。


 それはそれは、恐ろしく。


 リブシスに凸る者もいた。

 グラウザーに関するサイトは、全て荒らされた。

 数少ないグッズも捨てられるという事態になった(それの目撃者は、グッズを持ち去るので処分はできていない)。

 男なのに女性に嫌われるという事態を起こし、「グラウザー ○ね」が様々なSNSでトレンド1位にもなった。


 しかし、4日目、急に悟は自家用ヘリコプターである病院へ向かった。



 何故? 



 急病? いや、違う。



 お見舞い? 誰の? 



 そういえば、活動していない奴……あっ!



 世間は察した。

 それは、アンチと信者の争いが終わった瞬間でもあった。



 そして、



『こんにちは、東堂悟です! 数日の間、音沙汰も無く引き篭もってしまってごめんなさい! でも、もう大丈夫だよ! 今日は、ごめんなさいの生放送! 楽しい時間を過ごそうね!』



 数日前、初投稿した時と変わらぬ笑顔で生放送が開始された。



『今日は、あるゲストを呼んだ? 連れ込ん……違う! ゲストのところに凸ったよ! あっ、でも後少し時間がかかるよー』



 それは良い。しかし、問題は場所だ。白い壁、白い天井、白い床、そして何より医療施設用のベット。

 悟の後ろにはそれらが見えていた。


『朝の検査終わったぞー。てか、部屋入る前に仮面渡されたんだけど何これ?』

『うん、生放送中! ほらほらこっち来てー!』

『は? 君はいつから動画投稿者になったんだ?』

『グラウザーが入院した日』

『……』


 検査衣を身に纏ったグラウザーが部屋に入った。

 そして、検査、入院。この言葉を聞いて、理解しない者はいない。グラウザー(中の人)は何かしらあって入院していたということ。


『というわけで、ゲストはグラウザーだよ!』

『何て言えば良いか。音沙汰なくてすまん。急だったもんでな』

『入院はだいたい急じゃない?』

『……それもそうだな』

『では、失礼しまー!』

『ほんと、寄りかかるの好きだな』

『グラウザーとお母様以外しないし』

『痺れるんだが?』

『知らないっ!』


 悟は、隣で胡座をかくグラウザーの膝の上に座り、寄りかかる。悟はずっと笑顔のまま。グラウザーは文句を垂れているが、態度は「しょうがない奴め」と完全に受け入れている。


『して、結局ゲームすると』

『前は、自己紹介で終わったからね。後、ゲームを独り言言いながらするの寂しい』

『……そうか』

『というわけで、恋愛ゲームだよ!』

『何故、それにした?』

『偶には趣向を変えてね! というか、アンケートでも多かったんだー』

『よく春妃さん許可したな』

『一生懸命に頼んだらいけた!』

『ちょろくないか?』

『でも、せっかくなのでグラウザーに恋のいろはを聞きながらやりたいと思います!』

『ん?』

『グラウザーは恋のスペシャリストだからね!』

『ハードル上げるな』


 そして、野郎2人で恋愛ゲームをするという奇妙な生放送。


『なんで、男性を攻略する? 普通女性だろ?』

『言ったでしょ、グラウザーは恋のスペシャリストって! それは老若男女問わないということさっ!』

『それで?』

『ならば、このリブシスの男でさえもできる!』

『拒否権は?』

『あるわけ無いよ?』


 更に、男を攻略する。

 先ほどから情報が常識を逸脱し過ぎているものばかりなため、視聴者は完全に置いてきぼり。

 これは喜ぶべきか、いや喜ぶべきことだ。


 そして、流石リブシスがお抱え?というべきか、的確なアドバイスを出し、キャラの好感度を着実に上げていく。


『あっ、全員から刺された!』

『……ヤンデレルートか』


 製造機がいるので、迷うことなくヤンデレルートに直行したのだが。


『ちょうど良く、お腹減ったー』

『おっ、昼か。じゃあ』

『もんじゃ食べたい! 持ってきて!』

『いや、帰れや』

『グラウザー冷たい』

『匂いが充満するだろうが。おいおいおい、ホットプレート持ってきてんじゃねぇよ! いつから男性病棟はもんじゃ食べ放題屋になったんだよ』

『グラウザー』

『何だよ?』

『あとで部屋移ればよくない?』

『黙れ、我儘鬼畜BOY』

『あっ、酷い! 屑お面ヤロー!』


 そんな自由な生放送は夕方まで続いた。



 そして、悠人は別の病室に移った。



 因みに、悟の生放送は悠人が退院するその日まで毎日行われた。



 世間は喜びに満ち溢れたが、身内は不満を隠せなかったとか。



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