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68 出会いと不幸は唐突に

 


 梅雨の時期。

 雨具を着て、激しく降り注ぐ水滴を受けながら、自転車で駆ける。



「うお!?」



 学校からの帰宅途中、自転車のチェーンが外れ、ペダルにかかっていた負荷が無くなった。運が悪いと思いつつ、仕方なく自転車から降りて歩き始める。

 そういえばこの辺りにと、歩を進めれば、見慣れた公園を見つける。その公園には、雨宿り出来ることがあったので、そこで外れたチェーンを戻そうと俺は小走りでそこへ向かう。


 そうして、改めて自転車を見ると、チェーンが外れたのではなく、チェーンが切れていたことに気づく。


 これは直せない。




「ねぇ、そこの人」




 押して帰ろうと思った矢先、俺の後ろから声が降る。

 それは幼いが女性特有の高めの声ではなかったので、「えっ、男!?」とこの世界の一般女性と同じような反応をして思わず振り返った。


 そうして、俺の瞳に映ったのは空色のショートヘア。蒼い瞳を持つ美形な少年。着ている服も雨に濡れてはいるがよく貴族のパーティーで見かける豪華なアクセで包まれているドレス。


 確実に何処ぞのご子息。


 マジで何でこんなところにいんの?


「君、雨とはいえその見た目で外に出るのは襲って下さいと捉えられてもおかしくないよ。早く連れの方呼んで帰りなさい」

「……別にいい」

「そうかい」


 不貞腐れた様子で返事をする辺り確実に何か拗らせている。しかし、雨に濡れている状態、それによく見れば下着も透けて見えてしまっていた。この状態の少年を放置するというのも俺の中で後味が悪い。


「そのままの格好でいるのは体に悪い。俺の家に来て風呂でも入るか?」


 ダメ元でも一声かけておく。


「……」

「別に来なくてもいい。会ったばかりだし、嫌ならもう家に帰らせてもらうよ」

「……行く」

「そうか、ならこれ以上濡れないよう俺のレインコートを着なさい」

「うん」


 今来ているレインコートを脱ぎ、少年に渡す。少年は大人しくレインコートを受け取った。だが、そのままレインコートを珍しそうに見つめ続けて、一向に着る様子がない。


「着させてくれないの?」

「……分かった」

「ん」


 袖を通しやすいように腕を伸ばす辺り、まだ自分で服を着るという習慣が無いのだろう。

 レインコートを着せ、急ぎ足で自宅へと向かった。


 レインコートを着させないといけないこの少年。当然、風呂に1人で入るということもなく、俺も一緒に入ることになった。


「そういえば、よく誘いに乗ったな」

「確かに髪は長いけど、視線が全然違った。皆、血走った目で見てくるけど、温かくて優しい視線だったし、声も全然違ったし」

「そうかい」

「それより……お腹どうなってるの? 凄いゴツゴツしてる」

「鍛えてるだけだ。だから、突くな」


 その後、湯船に入ってもこの少年は突く事をやめなかった。


 そんなにも、シックスパックは珍しいのだろうか。




「で、俺は木下悠人。君の名前は?」 


 風呂から上がり、少年に俺のパジャマを着せた。そして、リビングに案内した後、対面するように座り、自己紹介をした。


「……言いたくない」


 ご丁寧に顔をプイッと横にする感じからして、絶対に言いたくない様子。何の理由があって抜け出したのかも分からない。


「まぁ、今日だけの付き合いだ。名前を聞いてもしょうがないか」


 だが、名前が分からないでは、どこの誰に連絡すればいいか見当がつかない。無理に言わせるのも俺の性に合わないし、どうしたものか。


「でも、悠人。よろしく」

「ああ、よろしくな。それより、何かしたいことはあるか?」

「んー、お腹空いた」

「よし、作ろう。何か食べたいものは?」

「お好み焼き」

「えっ? ……材料あったかな」


 それより君、貴族……だよな?






「さっさとあの子を探しなさい!」

「し、しかし、途中何者かによってジャミングを受け彼の捜索は難航で……」

「それでも続けなさい! まだ、遠くには行ってない筈です! 近隣にも人員を割いて探し出しなさい!」

「は、はい!」

「落ち着きなさい、アドリアナ。ここで当たり散らしても仕方ないですよ」

「……そうね、エリナ」

「しかし、貴女直属の優秀な特定班がここまで時間が掛かるとは。少なくとも組織で動いているに違いありません」

「あの子に何かあったら私は……」

「私も持てる力を全て貸します。必ず、見つけ出しましょう」

「ええ」

「あら、電話? ……悠人から? もしもし、悠人。今、私は忙しいので後にしてもらえませんか?」

『一つだけ聞きたいんだ。俺より歳が幼くて、空色の髪に蒼い瞳の男性貴族って知ってる?』

「えっ?」

『知らないのなら知らないで良いんだけど』

「今何処に?」

『家。今、布団で寝てるよ』

「直ぐに向かいます」

『おけ』

「アドリアナ、見つかりました。今すぐ向かいます」

「えっ、本当!? 今、何処に?」

「知り合いの家で保護されていたようです」

「それなら何故ジャミングを?」

「その者が世界的に有名な男性だからですよ。多分、知らず知らずに国を敵に回していたようですね」

「男、性? とりあえず、私の部隊を向かわせます」

「ええ、そうしなさい」

(本当に、縁があるのか無いのか悩ましいですね。悠人の胃にも悪いです)



『こちらα、拉致監禁したと思われる女性を無力化。アグリウス殿下を無事保護いたしました! 後、男性の姿はありませんでした』




「……はい?」




 エリナは、ブチ切れそうになった。




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